著者
冨江 直子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.80-92, 2010

本稿は,「救貧」が戦前日本における「社会」の形成にいかに与ったかを考察するために,「救貧」をめぐる三つの議論をみていく。第一は富国強兵のために国民を動員することを目的とした明治政府の感化救済事業である。ここでは貧者は「社会」の成員資格に満たない他者として扱われた。第二は方面委員の社会連帯思想である。これは貧者を具体的な人格として把握し,共同体の成員資格へと導くことによって「社会」に包摂しようとするものであった。第三は大河内一男の社会政策論である。これは貧者を抽象的な労働力として把握し,生産要素として「社会」に包摂しようとするものであった。後の二者は,対照的な方向に向かう議論であったが,共に,貧者を他者化して懲罰や教化の対象とする救貧のあり方へのアンチテーゼであった。これらはしかし,その精神や労働力を「社会」が領有することができない者をあらかじめ除いた世界を舞台として成立する議論であった。

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富江さんがここで書いていることをやや勝手に敷衍すると、大河内戦時社会政策論みたいなのは、君たち「人として」とか考えちゃうと「もっとがんばれ」と言ってしまうので、いっそ「資源」だと考えた方が実は多少大事にするんじゃないですか?というパターンの議論なのよな。 https://t.co/EP0qEpcaCz

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