ベルクソンは『物質と記憶』第三章において、「私の現在 mon présent 」について分析した後、断面の描かれていない倒立円錐図形を掲げつつ、一つの課題を示す。「われわれは長い迂回路を経て、こうして出発点に戻る」(MM,167(1))。「われわれは記憶力の二形態 deux formes de la mémoire を深く区別しつつも、その絆を提示せずにおいた」。「初めに分離しておいたこの二項」は、「この新たな観点」から「内奥において intimement ひとつに接合される、ことになる」(MM,168)と。記憶力の「二形態」とは「過去の記憶力」と「身体の記憶力」のことである(MM,169)。では、「この新たな観点」とは何であり、いかにして「記憶力の二形態」は「接合」されるのか。小論は『物質と記憶』第三章を中心に、「過去の記憶力」のほうに焦点を絞り、この問題に対する答えを概括的に探る試みである。「(2)私の現在」の分析がベルクソンの論述の転回点となっていることだろう。