著者
押谷 仁 神垣 太郎
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.364-373, 2013-08

大規模災害後には被災地の衛生状態の悪化や避難所の過密状態など環境要因が変化することにより,感染症の流行が起きるリスクが高まる.通常,大規模災害発生後1週間目程度から感染症流行への懸念が強調されることが多い.しかし,実際に大きな被害をもたらすような感染症の流行が起きることはむしろまれである.したがって感染症発生のリスクを適切に評価し,感染症対策を実施していくことが必要となる.また,感染症の流行を早期に検知し,適切な対応をすることが被害の拡大を抑制するために必要となる.早期検知には効果的なサーベイランスシステムが機能していることが条件となるが,災害後の困難な環境の中でサーベイランスシステムを構築することは容易ではない.通常,このような場合には症候群サーベイランスが行われるが,症候群サーベイランスには利点だけではなく問題点もあり,大規模災害後に構築すべき最適なサーベイランスについては,今後の検討が必要である.2011年3月に発生した,東日本大震災後にも感染症の流行が懸念されていた.大きな健康被害をもたらすような流行は幸いなかったが,インフルエンザやノロウイルスなどの流行はいくつかの避難所でも見られていた.東日本大震災の際にも症候群サーベイランスを基本としたサーベイランスが行われたが,その実施は遅れ,最も感染症発生リスクの高いと考えられた3月11日の震災直後から3月下旬までは系統的なサーベイランスは実施されていなかった.症候群サーベイランスだけに頼るのではなく,医療チームなどさまざまな情報源から感染症に関する情報を系統的に整理できるようなイベントベースサーベイランスの有効活用も考えるべきであったと考えられる.さらに,感染症だけはなく公衆衛生全体の対応をする有効なシステムが東日本大震災以前には日本において確立していなかった.大規模災害は今後も起こることが想定されており,そのような感染症を含めた公衆衛生対応のシステムを早急に確立することが求められている.

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