著者
神垣 太郎
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

アンケートでは352標本を回収することができ、のべ39992回の接触が記録された。年齢別に見ると13-15歳が最も高く、ついで16-24歳および6-12歳であった。身体的接触は家庭では70%を超えていたが、通勤・通学では約30%であった。接触マトリックスモデルでは20歳以下の未成年層を中心に同年齢に対する接触が最も高く表され、至近距離での接触では、さらに子供と親年齢での接触密度および成人と高齢者の接触密度が増加する傾向が認められた。先行研究と変わらない接触密度が観察された一方で、成人と高齢者との高い接触密度が観察されたことは我が国に特徴的な接触パターンの可能性が示唆された。
著者
押谷 仁 神垣 太郎
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.364-373, 2013-08

大規模災害後には被災地の衛生状態の悪化や避難所の過密状態など環境要因が変化することにより,感染症の流行が起きるリスクが高まる.通常,大規模災害発生後1週間目程度から感染症流行への懸念が強調されることが多い.しかし,実際に大きな被害をもたらすような感染症の流行が起きることはむしろまれである.したがって感染症発生のリスクを適切に評価し,感染症対策を実施していくことが必要となる.また,感染症の流行を早期に検知し,適切な対応をすることが被害の拡大を抑制するために必要となる.早期検知には効果的なサーベイランスシステムが機能していることが条件となるが,災害後の困難な環境の中でサーベイランスシステムを構築することは容易ではない.通常,このような場合には症候群サーベイランスが行われるが,症候群サーベイランスには利点だけではなく問題点もあり,大規模災害後に構築すべき最適なサーベイランスについては,今後の検討が必要である.2011年3月に発生した,東日本大震災後にも感染症の流行が懸念されていた.大きな健康被害をもたらすような流行は幸いなかったが,インフルエンザやノロウイルスなどの流行はいくつかの避難所でも見られていた.東日本大震災の際にも症候群サーベイランスを基本としたサーベイランスが行われたが,その実施は遅れ,最も感染症発生リスクの高いと考えられた3月11日の震災直後から3月下旬までは系統的なサーベイランスは実施されていなかった.症候群サーベイランスだけに頼るのではなく,医療チームなどさまざまな情報源から感染症に関する情報を系統的に整理できるようなイベントベースサーベイランスの有効活用も考えるべきであったと考えられる.さらに,感染症だけはなく公衆衛生全体の対応をする有効なシステムが東日本大震災以前には日本において確立していなかった.大規模災害は今後も起こることが想定されており,そのような感染症を含めた公衆衛生対応のシステムを早急に確立することが求められている.
著者
押谷 仁 齊藤 麻理子 岡本 道子 玉記 雷太 神垣 太郎 鈴木 陽
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.45-50, 2013-06-25 (Released:2014-04-26)
参考文献数
9

東北大学医学系研究科は,感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)による感染症研究の拠点を,フィリピン・熱帯医学研究所(Research Institute for Tropical Medicine: RITM)に2008年より設置している.フィリピンの拠点では公衆衛生学的見地からフィリピンにおいて重要な感染症を対象とし,感染症対策に貢献できるような研究を目指すことを基本方針としている.このため研究プロジェクトの多くはフィリピン各地でのフィールドでの研究となっている.これまでに主に取り組んできた研究プロジェクトとしては,小児重症急性呼吸器感染症に関する研究,インフルエンザの疾病負荷に関する研究,狂犬病の分子疫学,小児下痢症患者でのウイルス検索などがある.このうちレイテ島での小児重症呼吸器感染症に関する研究では,重症肺炎で入院した小児のウイルスを中心とした病因の検討を行ってきている.この間,Enerovirus 68が小児重症急性呼吸器感染症の重要な原因であることを見いだした他,Respiratory Syncytial Virus(RSV)の分子疫学的解析,Human Rhinovirus(HRV)の病態の検討などを行ってきた.これらの研究の結果を基盤として,地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)での小児肺炎に関する包括的研究をフィリピンにおいて2010年より行っている.