著者
三浦 尚之 風間 しのぶ 今田 義光 真砂 佳史 当广 謙太郎 真中 太佳史 劉 暁芳 斉藤 繭子 押谷 仁 大村 達夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.III_285-III_294, 2016 (Released:2017-04-03)
参考文献数
28
被引用文献数
4 3

下水道が整備された都市域においては,感染者から排出されたノロウイルスは下水処理場に流入する.本研究では,感染性胃腸炎の流行を早期に検知するために下水中のノロウイルスをモニタリングすることの有用性を評価した.2013年4月から2015年10月までの期間,流入下水試料を毎週収集し,下水中ノロウイルス濃度と地域の感染性胃腸炎患者報告数の相互相関分析を行った.さらに,下水中に検出されたノロウイルスの遺伝子型をパイロシーケンサーを用いて網羅的に解析し,地域の感染性胃腸炎患者便試料から検出された遺伝子型及び株と比較した.その結果,下水中ノロウイルスGII濃度は患者報告数と遅れが±1週未満の範囲で有意に相関すること(R = 0.57~0.72),及び下水中には患者便試料と同一の遺伝子型及び株が含まれ,それらが経時的に変化することが実証された.患者報告数が集計・公表されるには1~2週間の時間を要することから,下水中のウイルス濃度をモニタリングすることで,医療機関の報告に基づく現行の監視システムよりも早期に流行を検知できる可能性が示された.
著者
押谷 仁
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.139-144, 2009-12-24 (Released:2010-07-03)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

インフルエンザパンデミックは数十年に一度の割合で出現してきている.ここ数年高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)がパンデミックを起こる危険性が危惧されてきたが,実際に2009年に出現したパンデミックはブタインフルエンザ由来のA(H1N1)であった.このウイルスはこれまでヒトの間で流行を繰り返してきたAソ連型のA(H1N1)と亜型としては同じである,しかもこれまで想定されてきたA(H5N1)に比べると病原性も低いという特徴があった.このために今回のパンデミックA(H1N1)への対応はこれまで想定されてきたパンデミックと異なる側面を持っていた.このパンデミックを契機としてこれまでのパンデミック対策の考え方をもう一度再検討する必要がある.
著者
髙 勇羅 押谷 仁
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.109, no.11, pp.2281-2283, 2020-11-10 (Released:2021-11-10)
参考文献数
8

新型コロナウイルスに対する日本の対策,特に積極的疫学調査に基づくクラスター対策は,このウイルスに対して一定の効果をあげてきたと考えられる.しかし,これまでの対応からさまざまな課題も明らかになってきている.このウイルスの流行は今後も続く可能性があり,より効率的な対応の確立が求められる.
著者
押谷 仁 乙丸 礼乃 岡本 道子 古瀬 祐気 小田切 崇
出版者
東北大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

呼吸器ウイルスの多くはヒトのみを宿主としており、ヒトからヒトに継続的に伝播することでウイルスが維持されていると考えられる。しかし、ウイルスがどのように維持されているかについては不明な点も多い。また、フィリピンのような熱帯・亜熱帯地域では、年間を通して呼吸器ウイルスが伝播しており、ウイルスの維持に重要な役割を果たしている可能性ある。熱帯地域に位置する小規模な島という環境で長期にわたり検出したウイルスを解析することにより、呼吸器ウイルスの地域内での伝播・維持のメカニズムについて明らかにするとともに、グローバルレベルでの呼吸器ウイルスの伝播・維持に果たす役割についても明らかにする。
著者
押谷 仁
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 = Journal of Tokyo Women's Medical University (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.56-60, 2016-04

第81回東京女子医科大学学会総会 平成27年10月10日(土) 東京女子医科大学弥生記念講堂
著者
押谷 仁 神垣 太郎
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.364-373, 2013-08

大規模災害後には被災地の衛生状態の悪化や避難所の過密状態など環境要因が変化することにより,感染症の流行が起きるリスクが高まる.通常,大規模災害発生後1週間目程度から感染症流行への懸念が強調されることが多い.しかし,実際に大きな被害をもたらすような感染症の流行が起きることはむしろまれである.したがって感染症発生のリスクを適切に評価し,感染症対策を実施していくことが必要となる.また,感染症の流行を早期に検知し,適切な対応をすることが被害の拡大を抑制するために必要となる.早期検知には効果的なサーベイランスシステムが機能していることが条件となるが,災害後の困難な環境の中でサーベイランスシステムを構築することは容易ではない.通常,このような場合には症候群サーベイランスが行われるが,症候群サーベイランスには利点だけではなく問題点もあり,大規模災害後に構築すべき最適なサーベイランスについては,今後の検討が必要である.2011年3月に発生した,東日本大震災後にも感染症の流行が懸念されていた.大きな健康被害をもたらすような流行は幸いなかったが,インフルエンザやノロウイルスなどの流行はいくつかの避難所でも見られていた.東日本大震災の際にも症候群サーベイランスを基本としたサーベイランスが行われたが,その実施は遅れ,最も感染症発生リスクの高いと考えられた3月11日の震災直後から3月下旬までは系統的なサーベイランスは実施されていなかった.症候群サーベイランスだけに頼るのではなく,医療チームなどさまざまな情報源から感染症に関する情報を系統的に整理できるようなイベントベースサーベイランスの有効活用も考えるべきであったと考えられる.さらに,感染症だけはなく公衆衛生全体の対応をする有効なシステムが東日本大震災以前には日本において確立していなかった.大規模災害は今後も起こることが想定されており,そのような感染症を含めた公衆衛生対応のシステムを早急に確立することが求められている.
著者
押谷 仁 齊藤 麻理子 岡本 道子 玉記 雷太 神垣 太郎 鈴木 陽
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.45-50, 2013-06-25 (Released:2014-04-26)
参考文献数
9

東北大学医学系研究科は,感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)による感染症研究の拠点を,フィリピン・熱帯医学研究所(Research Institute for Tropical Medicine: RITM)に2008年より設置している.フィリピンの拠点では公衆衛生学的見地からフィリピンにおいて重要な感染症を対象とし,感染症対策に貢献できるような研究を目指すことを基本方針としている.このため研究プロジェクトの多くはフィリピン各地でのフィールドでの研究となっている.これまでに主に取り組んできた研究プロジェクトとしては,小児重症急性呼吸器感染症に関する研究,インフルエンザの疾病負荷に関する研究,狂犬病の分子疫学,小児下痢症患者でのウイルス検索などがある.このうちレイテ島での小児重症呼吸器感染症に関する研究では,重症肺炎で入院した小児のウイルスを中心とした病因の検討を行ってきている.この間,Enerovirus 68が小児重症急性呼吸器感染症の重要な原因であることを見いだした他,Respiratory Syncytial Virus(RSV)の分子疫学的解析,Human Rhinovirus(HRV)の病態の検討などを行ってきた.これらの研究の結果を基盤として,地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)での小児肺炎に関する包括的研究をフィリピンにおいて2010年より行っている.