- 著者
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嶺崎 寛子
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.78, no.2, pp.204-224, 2013-09-30
- 被引用文献数
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本稿は、宗教を淵源とするディアスポラ・アイデンティティの構築とその次世代再生産にかかる日常実践を、在日アフマディーヤ・ムスリムを事例として描く。アイデンティティの構築性を前提として、それが構築されるということを、行為主体としての個人だけでなく、個人が帰属する共同体、さらには社会的背景をも視野に入れつつ、民族誌的文脈のなかから捉え返そうとする試みであるともいえる。その際には、グローバル化や越境、国家との関係、言葉、ジェンダーに特に注目する。アフマディーヤは19世紀末、英領インドのパンジャーブ州に興ったイスラーム系の新宗教である。インド・パキスタン分離独立の際本部をパキスタンに移し、その後さらにパキスタン政府からの迫害により本部をイギリスに移転、現在に至る。信徒数は公称数千万、現在はパキスタンよりも欧米や西アフリカで勢力を伸ばしている。極端な平和主義と教団の高度な組織化、カリフ制の採用などに教団の特徴がある。本稿ではアフマディーヤ信徒たちを、国家の外縁に確信的に逃れながら、居場所とアイデンティティ保持のために平和的に交渉する多様な主体として位置づける。そして信徒らがどのようにアイデンティティを保持し、その世代間継承につとめているか、国家との関係や距離感、ホスト社会の内部での立ち位置の取り方などを具体的に検討する。それによって、ディアスポラにとってのアイデンティティや「いま、ここ」が持つ多様な帰属のあり方の意味と可能性、そして限界を明らかにしたい。なお本稿は2012年5月から現在に至るまで継続的に主に愛知県で行ったフィールド調査で得たデータに基づく。