- 著者
-
中本 敦
伊澤 雅子
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.2, pp.111-119, 2013-11-30
亜熱帯に位置する沖縄県には、多数の熱帯花木・熱帯果樹が街路樹や庭木として植栽されている。しかしこのような人為的な植栽が送粉共生系や種子散布共生系に与える影響についてはほとんど研究がなされていない。本研究では沖縄島に多数植栽されているデイゴErythrina variegata L.の花の花蜜分泌と訪花者の訪花の日周変化に関する調査を行った。デイゴは昼行性の鳥類によって媒介される鳥媒花であることが知られているが、沖縄島では鳥類に加えて昆虫類やオオコウモリなどによって訪花されていた。デイゴは朝に開花し、日中にのみ花蜜を分泌し、開花した花の約60%ではメジロZosterops japonicas(Temminck & Schlegel)に代表される日中の訪花者によって、夕方までに花蜜が枯渇していた。花蜜を有していた残りの40%のうち、30%の花でクビワオオコウモリ(Pteropus dasymallus Temminck)の夜間の訪花による花蜜の枯渇が観察された。植栽木は絶滅危惧種であるクビワオオコウモリの都市部での餌資源を補う資源として機能する反面、送粉を担っていたオオコウモリが訪れる機会を他の植物から奪うことで、本来の送粉共生系や種子散布共生系に悪影響を与える可能性がある。熱帯を起源とする脊椎動物媒の植物の多い沖縄県では、街路樹や公園などの植栽には、鳥類やオオコウモリが介在したネットワークを考慮した樹種選定を行う必要があるだろう。