著者
中本 敦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.267-284, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
120
被引用文献数
2

琉球諸島におけるこれまでのクビワオオコウモリの地理的分布に関する情報を整理し,分布の変遷としてまとめた.クビワオオコウモリの生息する琉球諸島は,熱帯を中心に多様化しているオオコウモリ類においては分布の北限にあたる.このような分布の辺縁部は,時に生存が困難であり,一般に分布境界があいまいな地域になることが予想される.特に飛翔能力を有するコウモリ類においては分布境界を超える島嶼間の移動が比較的簡単に生じるだろう.本研究の結果,1)クビワオオコウモリは,自然分散と局所絶滅を繰り返しており,経時的に分布範囲がかなり変化していること,2)少なくとも沖縄諸島個体群(亜種オリイオオコウモリ)の個体数と分布は,現在増加・拡大傾向にあること,3)いくつかの島の個体群(特に基準亜種エラブオオコウモリ)は,八重山諸島からの人為的な輸送に起源する可能性があることが明らかとなった.動物の分布の変遷はこれまでに予想された以上に短期間に広い範囲で起こっており,一部は過去の人為的な輸送の影響を強く受けている可能性が示唆された.今後,少なくともクビワオオコウモリの保護に関しては,現在進行中の分布変化に加え,人為的な移入などの歴史的な背景を含めて,総合的に議論していく必要がある.
著者
中本 敦 佐藤 亜希子 金城 和三 伊澤 雅子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.53-60, 2009 (Released:2009-07-16)
参考文献数
32
被引用文献数
2

沖縄諸島におけるオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusの分布と生息数に関する調査を2005年8月から11月と2006年4月から5月に行った.調査した25島のうち,新たに8島[伊是名島,屋我地島,奥武島(名護市),瀬底島,藪地島,奥武島(南城市),瀬長島,阿嘉島]でオオコウモリの生息を確認し,これまで生息が記録された島と合わせて19島となった.沖縄島の周辺各島で見られる個体群は,沖縄島の個体群サイズに対して,数頭から数十頭と非常に小さいものであった.また,その個体数は沖縄島から遠い距離にある島ほど小さくなる傾向が認められ,50 km以上離れた島では生息が確認できなかった.このような分布パターンから沖縄諸島で見られる個体は沖縄島からランダム分散した個体であると思われた.
著者
中本 敦 佐藤 亜希子 金城 和三 伊澤 雅子
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.53-60, 2009-06-30
被引用文献数
3

沖縄諸島におけるオリイオオコウモリ<i>Pteropus dasymallus inopinatus</i>の分布と生息数に関する調査を2005年8月から11月と2006年4月から5月に行った.調査した25島のうち,新たに8島[伊是名島,屋我地島,奥武島(名護市),瀬底島,藪地島,奥武島(南城市),瀬長島,阿嘉島]でオオコウモリの生息を確認し,これまで生息が記録された島と合わせて19島となった.沖縄島の周辺各島で見られる個体群は,沖縄島の個体群サイズに対して,数頭から数十頭と非常に小さいものであった.また,その個体数は沖縄島から遠い距離にある島ほど小さくなる傾向が認められ,50 km以上離れた島では生息が確認できなかった.このような分布パターンから沖縄諸島で見られる個体は沖縄島からランダム分散した個体であると思われた.<br>
著者
大月 友 松下 正輝 井手 原千恵 中本 敦子 田中 秀樹 杉山 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.89-100, 2008-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、社会的状況や自己に対する潜在的連合がスピーチ場面における個人のどのような側面の不安反応と関連するか、SocialPhobiaScale(SPS)やFearofNegativeEvaluationScale(FNE)といった顕在指標との比較を通して検討することであった。32名(男性16名・女性16名)の大学生に、Go/No-goAssociationTask(GNAT)で潜在的連合の測定を行い、覚醒水準の高い15名をGNATの分析対象者とした。また、スピーチ場面での不安反応として、認知的反応(思考反応)、主観的緊張感・不安感、生理的反応、行動的反応の各側面が測定された。実験の結果、顕在指標はスピーチ時の認知的側面や主観的側面の不安反応と関連しているのに対して、潜在的連合は生理的側面や行動的側面の一部の不安反応と関連していることが示された。これらの結果から、社会不安のアセスメントにおける潜在的連合の有用性が示唆された。
著者
中本 敦 佐藤 亜希子 金城 和三 伊澤 雅子
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.45-53, 2011-05-30
参考文献数
28
被引用文献数
1

沖縄島におけるオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusの個体数の長期モニタリング(2000年から実施)において、近年個体数の増加傾向が見られた。調査はルートセンサス法を用いて、沖縄島の都市部と森林部の2ヶ所で行った。都市部では2001年9月から2009年8月に、森林部では2004年と2008年の2年間調査を行った。両調査地ともにここ4〜8年間の間で個体数がおよそ3倍に増えていた。またこの目撃個体数の増加は全ての季節で見られた。これらの結果は、オリイオオコウモリの目撃数の増加が空間的な偏りの変化ではなく、沖縄島個体群自体の増大を意味するものであることを示す。沖縄島に接近した台風の数は2005年以降減少しているが、これは個体群の成長率の上昇のタイミングと一致していた。以上のことから沖縄島のオリイオオコウモリの個体群サイズは台風による攪乱頻度によって調節されている可能性があることが示唆された。今後、地球温暖化により台風の攪乱が不規則になると、本亜種の個体数変動が不安定になり、個体数増加による農業被害の拡大とともに地域個体群の絶滅が起こる可能性が高まることに注意する必要がある。
著者
中本 敦 伊澤 雅子
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.111-119, 2013-11-30

亜熱帯に位置する沖縄県には、多数の熱帯花木・熱帯果樹が街路樹や庭木として植栽されている。しかしこのような人為的な植栽が送粉共生系や種子散布共生系に与える影響についてはほとんど研究がなされていない。本研究では沖縄島に多数植栽されているデイゴErythrina variegata L.の花の花蜜分泌と訪花者の訪花の日周変化に関する調査を行った。デイゴは昼行性の鳥類によって媒介される鳥媒花であることが知られているが、沖縄島では鳥類に加えて昆虫類やオオコウモリなどによって訪花されていた。デイゴは朝に開花し、日中にのみ花蜜を分泌し、開花した花の約60%ではメジロZosterops japonicas(Temminck & Schlegel)に代表される日中の訪花者によって、夕方までに花蜜が枯渇していた。花蜜を有していた残りの40%のうち、30%の花でクビワオオコウモリ(Pteropus dasymallus Temminck)の夜間の訪花による花蜜の枯渇が観察された。植栽木は絶滅危惧種であるクビワオオコウモリの都市部での餌資源を補う資源として機能する反面、送粉を担っていたオオコウモリが訪れる機会を他の植物から奪うことで、本来の送粉共生系や種子散布共生系に悪影響を与える可能性がある。熱帯を起源とする脊椎動物媒の植物の多い沖縄県では、街路樹や公園などの植栽には、鳥類やオオコウモリが介在したネットワークを考慮した樹種選定を行う必要があるだろう。
著者
中本 敦 佐藤 亜希子 金城 和三 伊澤 雅子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.45-53, 2011-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
28
被引用文献数
2

沖縄島におけるオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusの個体数の長期モニタリング(2000年から実施)において、近年個体数の増加傾向が見られた。調査はルートセンサス法を用いて、沖縄島の都市部と森林部の2ヶ所で行った。都市部では2001年9月から2009年8月に、森林部では2004年と2008年の2年間調査を行った。両調査地ともにここ4〜8年間の間で個体数がおよそ3倍に増えていた。またこの目撃個体数の増加は全ての季節で見られた。これらの結果は、オリイオオコウモリの目撃数の増加が空間的な偏りの変化ではなく、沖縄島個体群自体の増大を意味するものであることを示す。沖縄島に接近した台風の数は2005年以降減少しているが、これは個体群の成長率の上昇のタイミングと一致していた。以上のことから沖縄島のオリイオオコウモリの個体群サイズは台風による攪乱頻度によって調節されている可能性があることが示唆された。今後、地球温暖化により台風の攪乱が不規則になると、本亜種の個体数変動が不安定になり、個体数増加による農業被害の拡大とともに地域個体群の絶滅が起こる可能性が高まることに注意する必要がある。
著者
中本 敦
出版者
岡山理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は機能的絶滅の閾値を明らかにすることを目的としている。琉球列島の58島について、種子散布者としてのオオコウモリと餌植物の密度推定を行った。また植物に関しては文献調査も行った。クビワオオコウモリの分布は基本的にはオオコウモリ類の本来の分布域である熱帯から離れるにしたがって、分布が飛び石状になる傾向が見られた。オオコウモリと強い共生関係にあることが予想される大型のFicus属の種やイルカンダとの分布の一致度は低く、明確な関係は見いだせなかった。モモタマナとリュウキュウガキでは、オオコウモリの分布との一致度が高く、種子散布をオオコウモリに強く依存している可能性が示唆された。
著者
中本 敦 遠藤 晃
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.207-213, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
23
被引用文献数
1

イノシシSus scrofaがおよそ数十~百年間生息していなかったと見られる長崎県五島列島の野崎島において,最近になって近接する地域からのイノシシの侵入が確認された.さらにその後の調査において,島内での分布と個体数が年々拡大していることを記録したのでここに報告する.野崎島でのイノシシの目撃は2010年に初めて記録された.その後,2011年,2012年,2014年の目視によるカウントと痕跡数の記録から,当初,局所的であった目撃場所や痕跡の分布が島内のほぼ全域へと次第に拡大していく様子が観察された.2014年12月に実施した3日間の調査では,のべ19個体のイノシシが目撃された.この個体数の増加は,複数年にわたって亜成獣が確認されていることから,島内でイノシシが繁殖を繰り返した結果と考えられた.すなわち,2010年のイノシシの最初の目撃以降の2年間は雌雄が揃わない等の要因から繁殖に至らなかった状況であったと考えられるが,1度島内で繁殖が始まった後は急激に個体数が増加することが明らかになった.今後,繁殖と海を越える分散を繰り返すことによって,五島列島におけるイノシシの個体数や分布が急速に拡大していくものと考えられる.
著者
柳本 朋子 中本 敦浩 福山 志穂
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. V, 教科教育 (ISSN:03893480)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.89-99, 2002-09

現在の数学教育は, 新学習指導要領による内容の削減, 数学嫌いなどのほか, 学校数学を取り巻くさまざまの観点から, その方向性の検討を迫られているといえる。これからの社会を生きていく子どもにとってどのような数学の力が必要になるのか, まさに教育内容の抜本的な再編成を検討する必要がある。筆者らは, これからの数学教育の内容として, 形骸化した基礎・基本とそれにのった解法を習得するより, むしろ, 与えられた数学的対象から自分の力で数学的性質や構造を感知・抽出し, 個々の問題を論理的に解決する力が必要であると考える。そのための教材として, グラフ理論の導入を検討している。ここでは, 小学生を対象とした教材化・教育実践の試みをとおしてその可能性を考察する。Mathematics educational system in Japan is currently facting problems such as the reduction of contents in the new curriculum; and the negative attitude exhibited by students towards mathematics. One way to solve these problem is to think about the kind of mathematical abilities needed in the society we now live in, thus, there is a need to change the mathematics curriculum dramatically. We have been considering introducing Graph Theory as one of the teaching materials that will help enhance the pupil's mathematical thinking and will make them realize that "thinking"is interesting. An experimental teaching on graph theory was conducted in elementary school. This paper presents the result and considerations in introducing the subject.
著者
中本 敦 木田 浩司 森光 亮太 小林 秀司 岸本 壽男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.107-115, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
45

岡山県全域を対象とした小型哺乳類の捕獲調査を2010年10月~2011年12月にかけて実施した.齧歯目6種,トガリネズミ型目2種の計130個体が捕獲された.小型哺乳類の8種すべてで生息密度が非常に低かった.アカネズミApodemus speciosusの捕獲数が最も多く,捕獲場所も県内全域の様々な環境に及んだ.これに対してアカネズミ以外の種では,植生や標高などの生息環境に選択性が見られた.アカネズミの生息密度に最も大きな影響を与えたのはハビタットタイプではなく,年2回の繁殖による個体数の増加であった.岡山県では何らかの理由で小型哺乳類の生息密度が非常に低くなっていると思われるが,特にこれまで普通種と思われていたヒメネズミA. argenteusとハタネズミMicrotus montebelliの生息数の減少が懸念された.他県においても普通種を含めた小型哺乳類の生息密度の再評価が必要な時期に来ていると思われる.
著者
中本 敦 木田 浩司 森光 亮太 小林 秀司 岸本 壽男
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.107-115, 2013-06-30

岡山県全域を対象とした小型哺乳類の捕獲調査を2010年10月~2011年12月にかけて実施した.齧歯目6種,トガリネズミ型目2種の計130個体が捕獲された.小型哺乳類の8種すべてで生息密度が非常に低かった.アカネズミ<i>Apodemus speciosus</i>の捕獲数が最も多く,捕獲場所も県内全域の様々な環境に及んだ.これに対してアカネズミ以外の種では,植生や標高などの生息環境に選択性が見られた.アカネズミの生息密度に最も大きな影響を与えたのはハビタットタイプではなく,年2回の繁殖による個体数の増加であった.岡山県では何らかの理由で小型哺乳類の生息密度が非常に低くなっていると思われるが,特にこれまで普通種と思われていたヒメネズミ<i>A. argenteus</i>とハタネズミ<i>Microtus montebelli</i>の生息数の減少が懸念された.他県においても普通種を含めた小型哺乳類の生息密度の再評価が必要な時期に来ていると思われる.<br>