著者
櫻井 利江
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.1807-1867, 2011-11

論説(Article)国家の所属集団に対する深刻な人権侵害から、自決権に基づいて同集団を救済することができるとする理論は救済的分離と呼ばれる。救済的分離権が認められるための条件は、所属政府によって集団が差別的に扱われ、人権が重大かつ深刻な状態にまで侵害され、国家の政策決定にその意見が反映されていないという状況が存在し(実体的条件)、および人権回復のためのあらゆる手段を尽くしたが、最終的手段として分離しか残されていないという状況が存在すること(手続的条件)である。 本件手続きにおいては立法論としての救済的分離に関する諸国家の見解が表明され、コソボ支持諸国およびセルビア支持諸国の双方に、救済的分離を国際法上の権利として認める諸国が存在することが確認された。また勧告的意見は救済的分離に関する実体的要件および手続的要件のそれぞれに含まれる要素が、本件において存在したことを間接的に認めている。また独立宣言立案者は「コソボ人民によって民主的に選出された人々」と判断した。そしてコソボ独立宣言に関して、一般国際法にも安保理決議一二四四にも違反しないと結論づけた。領土保全原則は分離権の存在を否定する根拠とされたが、勧告的意見は分離集団のような非国家主体には適用されないと判断した。勧告的意見が領土保全原則を分離の対抗概念として捉えていないことは、一般国際法における分離の禁止規則の不存在を示唆するであろう。本件手続きは救済的分離の権利としての発展状況を検証する場となった。

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