著者
櫻井 利江
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.981-1027, 2009-07

論説Article国際法は集団が所属国家から分離独立する権利―分離権を明確には禁止せず、また認めてもいない。国際社会の実行からすれば、集団が一定の基準を満たしている場合に、最終的手段として分離権(救済的分離)が認められる可能性がある。コソボは独立宣言後、60カ国および1地域から国家として承認された。第三国によるコソボへの国家承認付与は国家主権平等原則に違反する。コソボ承認の適法性を主張する議論としては、実効性原則によるものと、分離権によるものがある。国際機構および諸国家のコソボへの対応が「獲得された主権」理論を参照したとするならば、それらの行為の法的根拠は分離権にあるとみることができる。なお、コソボ独立宣言の合法性に関しては、国際司法裁判所の勧告的意見が要請された。
著者
櫻井 利江 Toshie Sakurai
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法学 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.711-746, 2012-09

コソボ事件勧告的意見は領土保全原則は国家間関係でのみ適用され、コソボのような非国家主体には適用されないと判断したが、なぜそのような結論を導くことができるのか実証していない。本稿は、1990年代に発生したザイール国内のカタンガ、コモロ国内のアンジュアン島およびモヘリ島およびボスニア・ヘルツェゴビナ国内のスルプスカ共和国による分離の事例、および国際文書に基づき、国際法における領土保全原則が以下のような意味をもつことを実証しようとしたものである。領土保全原則が既存国家が国内のすべての人民の自決権および人権を尊重し、すべての人民を代表する政府が存在するという条件を満たした国家の領土的現状を保護する意味で捉えられており、以上の条件を満たした国家においては、領土保全原則は人民の分離権行使を制限する役割をもつ。他方、政府による分離集団に対する深刻な人権侵害が存在するという特別な場合には、当該国家に領土保全原則は適用されず、集団の分離権が認められ、当該国家の領土的現状は維持されない。
著者
櫻井 利江
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.1807-1867, 2011-11

論説(Article)国家の所属集団に対する深刻な人権侵害から、自決権に基づいて同集団を救済することができるとする理論は救済的分離と呼ばれる。救済的分離権が認められるための条件は、所属政府によって集団が差別的に扱われ、人権が重大かつ深刻な状態にまで侵害され、国家の政策決定にその意見が反映されていないという状況が存在し(実体的条件)、および人権回復のためのあらゆる手段を尽くしたが、最終的手段として分離しか残されていないという状況が存在すること(手続的条件)である。 本件手続きにおいては立法論としての救済的分離に関する諸国家の見解が表明され、コソボ支持諸国およびセルビア支持諸国の双方に、救済的分離を国際法上の権利として認める諸国が存在することが確認された。また勧告的意見は救済的分離に関する実体的要件および手続的要件のそれぞれに含まれる要素が、本件において存在したことを間接的に認めている。また独立宣言立案者は「コソボ人民によって民主的に選出された人々」と判断した。そしてコソボ独立宣言に関して、一般国際法にも安保理決議一二四四にも違反しないと結論づけた。領土保全原則は分離権の存在を否定する根拠とされたが、勧告的意見は分離集団のような非国家主体には適用されないと判断した。勧告的意見が領土保全原則を分離の対抗概念として捉えていないことは、一般国際法における分離の禁止規則の不存在を示唆するであろう。本件手続きは救済的分離の権利としての発展状況を検証する場となった。