- 著者
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金指 あや子
菊地 賢
杉山 正幸
石田 清
永光 輝義
鈴木 和次郎
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.2, pp.139-149, 2014-11-30
環境省レッドリストで絶滅危惧II 類に指定されている日本固有種ハナノキAcer pycnanthum(ムクロジ科)の最大の自生地である岐阜県中津川市千旦林において、ハナノキ個体群の分布と構造を明らかにし、その成立について考察した。調査は、2カ所の自生地(A区:7.5ha、B区:0.9ha)で行った。自生地はいずれも造林地や広葉樹二次林に覆われているが、A区には、ため池沿いの湿地や水田跡地などの開放的な環境も含まれる。A区では胸高周囲15cm以上の幹を持つハナノキ個体が785個体、B区では44個体が確認され、A区は個体数規模においてハナノキの我が国最大の自生地であると認められた。A区では、逆J字型のサイズ構造を示し、若い未成熟個体を多く含んでいたが、B区は幅の広い一山型分布を示した。現存個体の死亡にともなう地域個体群の絶滅が危惧されるB区に対し、A区では更新木の存在により個体群の存続が見込まれる。こうした個体群構造の違いは、開放的環境の有無や森林の取り扱い履歴に起因する。特に過去、複数回行われたスギ、ヒノキなど針葉樹植林時の森林伐採が、ハナノキの順次更新をもたらした結果、A区における最大規模の個体数の維持に寄与していると考えられた。多くのハナノキ自生地では実生の更新がほとんど見られず個体群の衰退が危惧される中、ハナノキの保全管理のモデルケースとして、本区域のハナノキ個体群の動態を注意深く見守り、個体群の持続機構を解明するとともに、更新サイトを確保するための上層間伐(受光伐)などの管理を行う必要がある。