著者
菊地 賢
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.695-705, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
29

岐阜県中津川市千旦林地区に位置する「岩屋堂ハナノキ自生地」は、絶滅危惧種ハナノキの日本最大の自生地として知られ、湧水湿地を中心に種々の絶滅危惧種の生育が確認されている、生物多様性の保全上重要な自生地である。現在、この湧水湿地の近傍を通過する自動車専用道路(リニア接続道路)の建設が予定されており、湿地環境の影響が懸念されることから、日本生態学会自然保護委員会を含む複数団体が、ルート再考の要望書を提出している。文献や聞き取りによってハナノキ自生地周辺の歴史や伝統的土地利用形態を調べたところ、ハナノキ自生地付近が大規模な湧水湿地を水源に古来から営まれてきた千旦林村の枝村「岩屋堂」であったこと、そこには屋敷・田畑を森林が囲む伝統的里山景観が成立していたこと、湧水湿地と森林の伝統的里山管理を背景に、日本最大のハナノキ自生地が形成されたことが示唆された。リニア接続道路はこの岩屋堂集落の中心を通過し、分断する。そのためリニア接続道路の建設は景観の破壊や集落機能の低下を通じて里山管理を衰退させ、ハナノキ自生地の保全にも悪影響を及ぼすことが懸念される。本稿では、歴史生態学的見地から岩屋堂集落の伝統的土地利用およびハナノキ自生地の成立について考察するとともに、今後のハナノキ保全研究の課題についても考察したい。
著者
菊地 賢 金指 あや子 大曽根 陽子 澤田 與之 野村 勝重
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.457-464, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

ハナノキは,東海丘陵地域に生育する落葉高木で,絶滅危惧II類に指定されている絶滅危惧種であるが,自生地域では街路樹としてよく植栽されている。こうした植栽木の中に北米原産の近縁種アメリカハナノキとみられる個体が混入し,一部で実生が定着している実態が明らかとなった。近縁外来種は,競争だけでなく,浸透性交雑や繁殖阻害のように生殖を介しても影響を与えるため,在来種の存続に深刻な影響を与える可能性がある。そこで外来種を同定するための簡便な種識別手法の開発を試みたところ,葉の形態的指標である LDIは,種間で有意差が見られたものの識別手法としては有効とはいえなかったが,葉緑体遺伝マーカーは種の識別に有用であった。さらに生理生態特性の解析から,アメリカハナノキは暗条件下でハナノキより高い光合成速度を示すこと,さらに,ハナノキとアメリカハナノキとが交雑可能であることが明らかとなり,アメリカハナノキの侵入可能性が示された。今後,アメリカハナノキの侵入拡大を未然に防除するために,早急に植栽混入の現状や流通経路を究明し,生物学的侵入リスクを生態・遺伝・生理等の面から評価する必要がある。
著者
金指 あや子 菊地 賢 杉山 正幸 石田 清 永光 輝義 鈴木 和次郎
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.139-149, 2014-11-30

環境省レッドリストで絶滅危惧II 類に指定されている日本固有種ハナノキAcer pycnanthum(ムクロジ科)の最大の自生地である岐阜県中津川市千旦林において、ハナノキ個体群の分布と構造を明らかにし、その成立について考察した。調査は、2カ所の自生地(A区:7.5ha、B区:0.9ha)で行った。自生地はいずれも造林地や広葉樹二次林に覆われているが、A区には、ため池沿いの湿地や水田跡地などの開放的な環境も含まれる。A区では胸高周囲15cm以上の幹を持つハナノキ個体が785個体、B区では44個体が確認され、A区は個体数規模においてハナノキの我が国最大の自生地であると認められた。A区では、逆J字型のサイズ構造を示し、若い未成熟個体を多く含んでいたが、B区は幅の広い一山型分布を示した。現存個体の死亡にともなう地域個体群の絶滅が危惧されるB区に対し、A区では更新木の存在により個体群の存続が見込まれる。こうした個体群構造の違いは、開放的環境の有無や森林の取り扱い履歴に起因する。特に過去、複数回行われたスギ、ヒノキなど針葉樹植林時の森林伐採が、ハナノキの順次更新をもたらした結果、A区における最大規模の個体数の維持に寄与していると考えられた。多くのハナノキ自生地では実生の更新がほとんど見られず個体群の衰退が危惧される中、ハナノキの保全管理のモデルケースとして、本区域のハナノキ個体群の動態を注意深く見守り、個体群の持続機構を解明するとともに、更新サイトを確保するための上層間伐(受光伐)などの管理を行う必要がある。
著者
織田 弥生 髙野 ルリ子 阿部 恒之 菊地 賢一
出版者
The Japanese Psychological Association
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.579-589, 2015 (Released:2015-02-25)
参考文献数
39
被引用文献数
1 3

We developed the 33-item Emotion and Arousal Checklist (EACL), which consisted of five subscales to assess emotions (Fear, Anger, Sadness, Disgust, and Happiness) and four subscales to assess arousal (Energetic arousal +, Energetic arousal −, Tense arousal +, and Tense arousal −). This checklist was developed to assess psychological state, both at a given moment and during the past week. In Study 1, confirmatory factor analyses identified nine subscales, whose internal consistency was indicated by their reliability. In Study 2, the EACL’s validity was demonstrated by its correlation with the State-Trait Anxiety Inventory, Multiple Mood Scale, General Arousal Checklist, Japanese UWIST Mood Adjective Checklist, and Profile of Mood States. In Study 3, changes caused by tasks that involved either reading emotion-inducing articles or performing a calculation indicated the validity of the EACL for measuring psychological state at a given moment. Further, the test-retest reliability of the EACL for assessing psychological state during the past week was confirmed. These studies confirmed the reliability and the validity of the EACL.
著者
織田 弥生 菊地 賢一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.93.21313, (Released:2022-11-01)
参考文献数
20

The Emotion and Arousal Checklist (EACL) is a 33-item questionnaire developed to assess psychological states at a given moment and during the past week. We examined the application of this checklist to assess psychological states during the past month. In Study 1, confirmatory factor analyses identified nine subscales, similar to a previous study, which measured psychological states at a given moment and in the past week. The internal consistency of these subscales was assessed with Cronbach’s alpha. Study 2 confirmed the test-retest reliability at the one-week interval. In Study 3, the participants rated their psychological states during the past week four times at the one-week interval and during the past month at the fourth measurement. Reliability was demonstrated by the correlation between the mean of four times one-week measurement and the measurement for during the past month. Study 4 demonstrated criteria-related validity by comparing the subscale scores between the high- and low-stress groups. These studies confirmed the reliability and validity of the EACL for assessing psychological states during the past month.
著者
織田 弥生 髙野 ルリ子 阿部 恒之 菊地 賢一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.579-589, 2015
被引用文献数
3

We developed the 33-item Emotion and Arousal Checklist (EACL), which consisted of five subscales to assess emotions (Fear, Anger, Sadness, Disgust, and Happiness) and four subscales to assess arousal (Energetic arousal +, Energetic arousal −, Tense arousal +, and Tense arousal −). This checklist was developed to assess psychological state, both at a given moment and during the past week. In Study 1, confirmatory factor analyses identified nine subscales, whose internal consistency was indicated by their reliability. In Study 2, the EACL's validity was demonstrated by its correlation with the State-Trait Anxiety Inventory, Multiple Mood Scale, General Arousal Checklist, Japanese UWIST Mood Adjective Checklist, and Profile of Mood States. In Study 3, changes caused by tasks that involved either reading emotion-inducing articles or performing a calculation indicated the validity of the EACL for measuring psychological state at a given moment. Further, the test-retest reliability of the EACL for assessing psychological state during the past week was confirmed. These studies confirmed the reliability and the validity of the EACL.
著者
川合 將義 渡辺 精一 粉川 博之 川崎 亮 長谷川 晃 栗下 裕明 菊地 賢司 義家 敏正 神山 崇 原 信義 山村 力 二川 正敏 深堀 智生 斎藤 滋 前川 克廣 伊藤 高啓 後藤 琢也 佐藤 紘一 橋本 敏 寺澤 倫孝 渡辺 幸信 徐 超男 石野 栞 柴山 環樹 坂口 紀史 島川 聡司 直江 崇 岩瀬 宏 兼子 佳久 岸田 逸平 竹中 信幸 仲井 清眞
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2007

高エネルギー高強度陽子ビーム場の材料は、強烈な熱衝撃や放射線によって損傷を受ける。衝撃損傷過程と影響を実験的に調べ、その緩和法を導いた。また放射線損傷を理論的に評価するコードを開発した。さらに、損傷に強い材料として従来の材料に比べて強度の4倍高く室温で延性を持つタングステン材と耐食性が4倍高いステンレス鋼を開発した。衝撃実験における応力発光材を用いた定量的な方法を考案し、実用化の目処を得た。
著者
菊地 賢一
出版者
大学入試センター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

大学入試センターでは、センター試験の各県ごとの志願者数の予測を行い、それにより試験会場の割り当てなど、試験実施に関する様々な準備を行っている。また、将来的には18才人口の減少などにより志願者数の大きな変動も予想される。,このため、センター試験の志願者数を予測することは、大学入試センターにとって非常に重要な問題である。これまでは、データに単純な多項式をあてはめて外挿する方法と現役高校生や浪人の数などにより予測を行うほほうが一般的であった。しかし、今後の大学受験の多様化により、センター試験の志願者数は、より複雑な変動を示すものと思われる。このため、データを多変量時系列データとして取り扱い、時系列モデルとベイズ的モデルを用いることによって予測を行った方が、より正確な予測が行えるものと考えた。まず、本研究において使用するデータの作成を行った。現在まで行われてきたセンター試験、共通一次試験の資料を、計算機で解析できるテキストファイルとして入力した。次に、多変量自己回帰モデルおよびベイズ的階層回帰モデルのそれぞれ単独での当てはめおよびその組み合わせの当てはめを検討した。そして、モデルを構築した後、そのモデルの妥当性を検討するためにシミュレーション実験を行った。また、そのモデルを利用して、各県、各性別のセンター試験志願者数を予測し、県または性別ごとのパラメータの値の違いなどにより、それぞれの県や性別の特色も検討した。
著者
酒井 志延 小野 博 杉森 直樹 久村 研 菊地 賢一
出版者
千葉商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.背景:本研究チームは,平成16年度に民間の研究団体で開発されたテスト・エンジンを使って試験的なオンラインによるコンピュータテストを開発していた。しかし,そのコンピュータテストはいくつかの欠点を持っていた。(1)このオンラインによるコンピュータテストは,民間の研究団体の開発したエンジンであったこと。そのために,研究のためであっても使用料を払わなければならなかった。(2)このオンラインによるテストは,項目識別パラメータと問題難易度パラメータを持っているテストアイテム・プールを必要とする。テストアイテム・プールは順次テストアイテムを増やしていって,大きくする必要があった。しかし,そのテストアイテム・プールは,問題の順次追加が不可能で,問題をプールごと変更する必要があった。2.今回の研究による成果(1)コンピュータテストのテスト・エンジンの開発そしてそれと民間のテスト・エンジンを交換すること。そして,その新しいエンジンで,従来のテストアイテム・プールからの問題が有効に使用できるようにすること。この課題に対し,テストエンジン開発者の菊地をメンバーに加え,菊地が開発したテストエンジンを民間のエンジンと交換した。平成18年7月に18名の同一試験者に,そのテストエンジンを使ったコンピュータテストと同一のテストアイテムバンクから出題したペーパーテストを実施し,その相関係数は0.90であった。(2)テストアイテム・プールを改良し,パラメータがついたテストアイテムを順次プールに追加できるようにすること。この課題に対し,アイテムプールのシステムを改良し,新しくパラメータをつけたアイテムバンクを持ったコンピュータテストが,正常に作動したことを確認した。
著者
今井 新悟 伊東 祐郎 中村 洋一 酒井 たか子 赤木 彌生 菊地 賢一 本田 明子 中園 博美 西村 竜一 篠崎 隆宏 山田 武志 家根橋 伸子 石塚 賢吉 ファム ターンソン
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

日本語学習者のための日本語スピーキング能力をコンピュータ上で自動採点するテストシステムを開発した。インターネットを介して受験でき、時間と場所の制約を受けずに受験が可能である。音声認識技術を使い、受験者の発話から特徴量を抽出することにより、自動採点を実現している。項目応答理論を用い、受験者の能力に適合した難しさの問題を出題するアダプティブテストとなっており、少ない問題数で能力の判定ができる。