- 著者
-
定松 淳
- 出版者
- 環境社会学会 ; 1995-
- 雑誌
- 環境社会学研究
- 巻号頁・発行日
- vol.20, pp.180-195, 2014
本稿は,高レベル放射性廃棄物の処分をめぐって2012年に日本学術会議が原子力委員会に対して行った提言と,それに対する原子力委員会の返答の分析を行った。本稿では,これらを環境社会学における「公共圏の豊富化」の実践の試みとして捉え,両者の不一致の理由を探ることで,「公共圏の豊富化」概念の弱点を明らかにすることを試みた。日本学術会議の提案は,できるだけ中立的かつ包括的な,結論が開かれた討議を志向するものであった。しかしカナダの先行事例と比較すると,すでに地層処分を実施するための枠組みをもっている原子力委員会が,結論がオープンな討議に参加することのメリットが少ないことが明らかになった。中立性という普遍的な合理性の志向が,推進側の条件適応的な合理性を説得できていない状況であるということができる。このことは,「公共圏/公論形成の場の豊富化」という概念が,民主主義的な理念としての魅力を強く備えたものであるがゆえにかえって,「すでに利害をもった主体を,開かれた討議にいかにして引き込むか」という点の検討,ひいては「討議を,実効性ある政治的決定にいかにつなげるか」という点の検討の手薄さにつながっていることを示唆する。環境社会学者は,この「公共圏概念による政治過程の忘却効果」に留意しながら,研究と実践を進めることが求められる。