- 著者
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周防 一平
- 出版者
- 日本歯科医史学会
- 雑誌
- 日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
- 巻号頁・発行日
- vol.31, no.1, pp.6-10, 2015-03-31
現在通俗的に用いられる「妖怪」は,造形化されたキャラクターを意味している.この「妖怪」に対するイメージは,鳥山石燕に始まり水木しげるによって完成された.そのルーツとなった鳥山石燕の『画図百鬼夜行』シリーズにおける身体表現の一例として下垂手を取り上げ,陰陽論からその意味を読み解いた.『画図百鬼夜行』シリーズにおいて下垂手を示す妖怪は「火車」「野寺坊」「飛頭蛮」「雪女」「ひょうすべ」「濡女」「酒顛童子」「火消婆」「川赤子」「魍魎」「震々」「狂骨」の12種であった.これらの妖怪には,陽の虚した状態もしくは陰の盛んな状態という特性が共通してみられた.また,下垂手自体に着目すると,前腕伸筋群の弛緩性麻痺によりこの肢位をとることが知られている.この伸筋群は経絡流注でいう手の三陽経の支配部位となる.つまり陽の虚した状態を示していると考えられる.よって,下垂手は陽虚,陰盛の表現と解釈することが出来る.