- 著者
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勝又 悠太朗
- 出版者
- 地理科学学会
- 雑誌
- 地理科学 (ISSN:02864886)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.2, pp.39-59, 2015
本稿の目的は,静岡県富士地域の衛生用紙産地を事例に,産地企業の存立形態からみた生産流通構造の変化とその要因・背景を明らかにすることである。企業の存立形態は4つに類型化でき,個別企業の事例を通して,生産流通構造の変化とその要因・背景を明らかにした。生産流通構造の変化の第1は,生産の集約化である。1990年代以降,企業の廃業・倒産が進んだ一方で,これを契機に有力企業は合併・系列化を進展させた。第2に,直販の増加があげられる。これは有力企業による販売体制の整備や量販店との取引の増加が要因である。第3に,産地外企業とのつながりの強化があげられる。産地外企業との系列化・業務提携に加え,産地外企業の製造子会社として存立する企業もみられる。また近年では,産地企業による企業内国際分業の構築がみられるが,依然として産地内での生産が重視されている。これは,衛生用紙の製品特性に加え,富士地域における立地の優位性が産地維持要因として大きく働いているためである。