著者
勝又 悠太朗
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.64-77, 2023 (Released:2023-07-06)
参考文献数
29

本稿では,奈良県の医薬品産業における企業の存立形態を明らかにした。当地域の医薬品産業は地場産業として成立した配置薬生産を起源とする。しかし,配置薬の生産は減少しており,それを専業で生産する企業は一部に限定されている。他方,配置薬だけでなく一般薬や医薬部外品,健康食品などを生産し,生産品目の多品目化を進める企業がみられるようになった。さらに,大手企業をはじめとする医薬品企業やドラッグストアからの受託生産を主軸とする企業も登場した。こうした企業は,当地域の医薬品産業の中では規模が大きく,医療用薬を主要生産品目とする点に特徴がある。このように,当地域の医薬品生産企業の存立形態には変化が認められる。そして,全医薬品の生産額に占める配置薬の割合が低下する一方で,生産品目の多品目化と受託生産が増加した結果,当地域の医薬品の生産額は2000年代半ば以降も増加傾向を示している。ただし,配置薬生産の減少は企業が奈良県に集積するメリットを低下させている。また,受託生産の拡大は生産額の増加に寄与するが,受託元企業による生産のグローバル化の推進や当産業をめぐる制度の変化などの影響を受けやすいものであるといえる。
著者
勝又 悠太朗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.17-33, 2020-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
3

本稿は,愛知県瀬戸陶磁器産地を対象に,産業用陶磁器生産企業の生産品目の変化と生産流通構造を明らかにした.当産地は,伝統的な陶磁器産地として知られるが,現在は産業用陶磁器が主力製品となっている.研究対象企業は,生産品目の構成により3類型される.特化型企業I型は,架線碍子を主力製品とし,受注先企業との取引関係は総じて固定的である.特化型企業II型は,架線碍子以外の特定製品の生産に特化し,主力製品の高付加価値化を重視している.また,特化型企業はI型とII型ともに,地域内分業を基調とした生産構造を形成している.一方,多様化型企業は,製品の多品目化を進め,特定製品に依存しない生産構造を構築している.特化型企業に比べると多くの受注先企業を有しており,外注先企業は全国に広がっている.なお,いずれの企業類型も,県域を越えた広域的な受注連関を形成している.このように,当産地は,性格が異なる企業の集積により,産業用陶磁器を中心としたさまざまな製品の受注を広く獲得する産地として存続している.
著者
勝又 悠太朗 堀本 一樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.206, 2022 (Released:2022-03-28)

1.はじめに 発表者は,インドにおける新型コロナウイルス(COVID-19)感染の地域的特徴をGISによる地図化を通じて検討し,その結果を発表してきた(勝又・月森,2020;勝又ほか,2021;Katsumata et al.,2021など)。そこでは,主に州別・月別にみた感染者数のデータを使用し,感染動向の地域的特徴を明らかにしてきた。本発表も,その続報に位置づけられるが,今回は具体的なデータ分析の結果を提示するのではなく,研究の過程で浮き彫りとなったデータ分析に関わる課題を報告する。ここでは,①感染者データの入手に関する課題,②県別のデータ分析に関する課題,③他のデータとの併用に関する課題の3点を主に取り上げることにする。 2.感染者データの入手に関する課題 これまで分析には,covid19india.orgが収集し,ウェブサイトで公開しているデータを使用してきた。同組織は有志による活動のため,公的な組織ではないが,国や州などが発表する情報を中心に収集を行ってきた。公開されるデータには,インド全体の感染者のデータに加え,州(State)別,県(District)別に集計された地理情報を含んだデータもあり,時系列にデータを入手することができる。そして,これらのデータの学術研究への利用も進んでいる。しかし,同組織によるデータの収集と公開の活動が,2021年10月31日をもって終了したため,11月1日以降のデータを入手することが出来なくなり,以降のデータ分析を行うための大きな課題となっている。3.県別のデータ分析に関する課題 これまで発表者は,主として州別の感染者データを使用した分析を行ってきた。一方,州よりも小さな行政単位である県別の感染者データも公開されている。県別のデータ分析をすることで,感染の地域的特徴をより詳細に明らかにすることができると考える。しかし,県別のデータを使用した分析を実施するにあたっては,いくつかの課題も存在する。まず,covid19india.orgが収集したデータの中には,県別のデータが存在しない州もあることである。また,県の境界が変更されることがあるため,感染者のデータと結合する際にGISで使用する県の境界データの入手も課題となる。 4.他のデータとの併用に関する課題 最後の点は,上記の県別のデータ分析に関する課題とも関わるが,感染者のデータと他の統計データをGISで併用する際に生じる課題があげられる。例えば,人口あたりの感染者数を地図化する際には,州別や県別の人口数のデータを入手する必要がある。こうした人口データは,インドのセンサス(国勢調査)に含まれるが,2022年1月の時点で使用できる最新のものは2011年のセンサスに基づくデータとなる。2011年以降,州と県の中には境界の再編が生じたものもあり,現在の州・県の境界に合わせデータを再集計する必要がある。ただし,県の中には,境界が複雑に再編されたものもあり,データの再集計が困難な場合もある。センサスには社会・経済的な様々なデータが含まれるが,感染者のデータと併用する際には課題も多い。
著者
勝又 悠太朗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.159, 2021 (Released:2021-03-29)

1.研究背景と目的 1991年の経済自由化を契機に,インドは急速な経済成長を経験している。このような中で,都市化の進展や大都市の発展,郊外空間の拡大,工業地域の形成,都市農村間の結合の強化など,急激な空間的変化が生じている(岡橋,2015)。しかし,経済成長の程度には地域ごとに差異があり,地域格差の拡大も確認される。 本研究の取り上げるウッタル・プラデーシュ州(以下,UP州)は,経済的後進性を示すヒンディーベルトに位置し,インドにおいて最大の人口を有する州である。そのため,雇用機会が限られ,膨大な余剰労働力をかかえているため,就業を目的とした州外への人口移動が顕著に進んでいる(宇佐美・柳沢,2015)。本研究は,インドのセンサスデータを使用し,UP州の人口動態を分析することを目的とする。 2.UP州の概要と人口特性 UP州は,インド北部に位置する。2011年の人口は199,812,341人であり,インドの総人口の16.5%を占めている。1991年の人口(132,061,653人)と比較すると,増加率は51.3%となり,インド全体(43.1%)を大きく上回る。 同州の人口を都市・農村別にみると,農村人口が77.7%と多くを占める。一方,人口100万人以上の大都市も州都のラクナウを含め7つ所在する。また,同州の一部は,デリー首都圏地域(以下,NCR)に含まれ,ノイダやガージヤーバードはデリーの郊外都市として発展をみせている。3.UP州における人口移動 2011年のセンサスデータをもとに,UP州における州間人口移動(5年以内)の地域的特徴を検討する。同州の州間人口移動を流入移動と流出移動に分けると,前者が892,750人,後者が3,037,088人と200万人を超える流出超過を示している。これは,インドの州の中で最多の流出超過数である。 UP州への流入移動をみると,最大の流入元州はビハール州(218,968人)である。これにデリーとマディア・プラデーシュ州が続き,いずれも移動者は10万人を超える。近隣の州からの移動が卓越するが,デリーからの移動はNCRの郊外発展を反映したものと思われる。 一方,UP州からの流出移動は,マハーラーシュトラ州の727,234人を最多に,デリー,グジャラート州,ハリヤーナー州の順となる。高い経済成長を示すインド西部とデリーおよびその周辺への人口移動が活発であることがわかる。 発表では,経年変化を踏まえた分析や県レベルでの集計データを使用した分析についての考察も行っていく。
著者
勝又 悠太朗
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.39-59, 2015

本稿の目的は,静岡県富士地域の衛生用紙産地を事例に,産地企業の存立形態からみた生産流通構造の変化とその要因・背景を明らかにすることである。企業の存立形態は4つに類型化でき,個別企業の事例を通して,生産流通構造の変化とその要因・背景を明らかにした。生産流通構造の変化の第1は,生産の集約化である。1990年代以降,企業の廃業・倒産が進んだ一方で,これを契機に有力企業は合併・系列化を進展させた。第2に,直販の増加があげられる。これは有力企業による販売体制の整備や量販店との取引の増加が要因である。第3に,産地外企業とのつながりの強化があげられる。産地外企業との系列化・業務提携に加え,産地外企業の製造子会社として存立する企業もみられる。また近年では,産地企業による企業内国際分業の構築がみられるが,依然として産地内での生産が重視されている。これは,衛生用紙の製品特性に加え,富士地域における立地の優位性が産地維持要因として大きく働いているためである。