- 著者
-
西浦 麻美子
- 出版者
- お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科
- 雑誌
- 人間文化創成科学論叢 (ISSN:13448013)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, pp.161-168, 2007
18世紀末フランスにおけるアングロマニー(イギリス心酔)の実態を、貴族の回想録や書簡、同時代の記述をもとに明らかにした。1775年にアメリカ独立戦争が勃発すると、フランスは植民地の独立を支援する立場からイギリスと対立した。この時「アメリカ熱」がそれまでのアングロマニーに取って代わる勢いを見せ、さらにアングロフォビー(イギリス嫌い)の気運が高まった。イギリス人の仕草や服装を真似たイギリスかぶれの貴族の若者たちは、率先してあこがれの国を敵にまわした戦争に乗り出しており、この事実は、一見アングロマニーの消滅を物語っているかのように見える。しかしそこには、敵を敬いつつも、アメリカの独立を願う気持ち、イギリスを模範として称えつつも、フランスの制海権を取り戻そうとする気持ち、さらには自らの武勲を望む気持ちが入り交じっていたことが指摘でき、戦争による敵対関係が必ずしも彼らのアングロマニーを妨げていなかったことがわかる。またこの時期の「アメリカ熱」は、「自由」という共通する記号によってアングロマニーと結びついており、戦後、結果的にアングロマニーが勢いを増して復活したことからも、「アメリカ熱」はアングロマニーのもうひとつの形であったといえる。