著者
徳井 淑子 小山 直子 西浦 麻美子 新實 五穂
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

男女の性が服装によって明確に二分化されたのは、洋の東西を問わず近代社会においてである。日本では、それが国家および知識階級の要請によって行われ、政治的な意味をもったが、一方でヨーロッパでは資本主義社会への転換のなかでブルジョア倫理として要請され、社会・経済的な意味を帯びている。近代社会では男女の服装の乖離が顕著であるのに対し、中・近世社会では服装による男女の分化は必ずしも鮮明ではない。現代社会では同化、接近、越境はさまざまなレヴェルで絶え間なく行われ、それによってファッションの多様化が進み、二元論的な性では捉えられない複雑な性のあり方を示している。男女の服装の同化・接近・越境は新たな感性により新たな性の表象として現出するが、同時にジェンダー表象としてつくられた新たな服飾が、新たなジェンダー感性を育んでいくことも確かである。
著者
西浦 麻美子
出版者
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科
雑誌
人間文化創成科学論叢 (ISSN:13448013)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.161-168, 2007

18世紀末フランスにおけるアングロマニー(イギリス心酔)の実態を、貴族の回想録や書簡、同時代の記述をもとに明らかにした。1775年にアメリカ独立戦争が勃発すると、フランスは植民地の独立を支援する立場からイギリスと対立した。この時「アメリカ熱」がそれまでのアングロマニーに取って代わる勢いを見せ、さらにアングロフォビー(イギリス嫌い)の気運が高まった。イギリス人の仕草や服装を真似たイギリスかぶれの貴族の若者たちは、率先してあこがれの国を敵にまわした戦争に乗り出しており、この事実は、一見アングロマニーの消滅を物語っているかのように見える。しかしそこには、敵を敬いつつも、アメリカの独立を願う気持ち、イギリスを模範として称えつつも、フランスの制海権を取り戻そうとする気持ち、さらには自らの武勲を望む気持ちが入り交じっていたことが指摘でき、戦争による敵対関係が必ずしも彼らのアングロマニーを妨げていなかったことがわかる。またこの時期の「アメリカ熱」は、「自由」という共通する記号によってアングロマニーと結びついており、戦後、結果的にアングロマニーが勢いを増して復活したことからも、「アメリカ熱」はアングロマニーのもうひとつの形であったといえる。