著者
岡田 仁 OKADA Hitoshi
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
言語と文化
巻号頁・発行日
pp.117-132, 1993-03-20

イェイツ(W.B.Yeats)の詩集『塔』は1928年の出版で,主に1920年代に書かれた詩を集めている。これらはイェイツ60歳前後の作品ということになる。この頃イェイツは,内乱の危機を孕みながらもどうにかイギリスから自治権を獲得した新生「アイルランド自由国」の上院議員に選ばれ,翌1923年にはノーベル文学賞を受賞している。個人生活の面では,25年にわたるモード・ゴン(Maud Gonne)への求愛をついに諦め1917年に結婚した30歳近く年下の妻との間に一男一女を儲けて安定した家庭生活を送っていた。この家庭生活は二つの点でイェイツにとって非常に大きな意味を持つことになった。1914年出版の詩集『責任』の冒頭の詩で,イェイツは自分の祖先の血筋を誇り,それを受け継ぐ子供が自分にないことを祖先に詫びていた。1) イェイツにとって家庭を持つことは,文化的伝統の継承と言う意味でも,「責任」の一つだったのである。そして,結婚によって,イェイツは三つの重要な責任を全て果たすことができることになった。すなわち,アイルランド文芸復興を通じて行ってきた独立運動(また,上院議員としての活動)による国家に対する責任,一生続いた真摯な詩作活動(表面的には,ノーベル文学賞受賞)による文学に対する責任,そして家系に対する責任である。さらに,この責任の全うが,実は,「功なり名を遂げた」詩人の完成ではなく新たな出発であったところにイェイツの真の偉大さがあったと言えるだろう。

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