著者
田中 亘
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.3-31, 2011

本稿は, 契約違反の際に適用される法のルールについて, 強制履行を認めるルール(強制履行ルール)と, 履行利益の賠償しか認めないルール(履行利益の賠償ルール)との比較を中心に検討する. とりわけ, 裁判所による損害の算定が容易でない一方, 契約の当事者間の再交渉が容易であるときは, 強制履行ルールが利点を持ちうることを明らかにする. また, 当事者がリスク回避的なときは, 契約違反がどういう原因で行われるか(損失を避けるために契約違反をするのか, 利益を得るために契約違反をするのか)も, ルールの評価にとって重要であることを指摘する. 以上の検討を踏まえ, 本稿は, 契約違反に関する日本法の分析・評価も行う. 日本法は, 強制履行を原則として認める法体系であるが, 本稿は, これが一定の状況下では合理性を持ちうることを明らかにするとともに, 強制履行ルールの欠点であると通常考えられている問題についても, 日本法は一定の対処を行っていることを指摘する.

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