- 著者
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遠山 景広
- 出版者
- 北海道大学大学院文学研究科
- 雑誌
- 北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- no.13, pp.417-436, 2013
社会的共通資本は,主に産業基盤を中心として考察の対象となり,中でも社会インフラの整備は経済的な理由を優先して進められてきた。社会的共通資本が注目された高度成長期には,社会インフラの整備は国民の生活と経済力という2つの意味から全体社会を向上させるとされ目標の1つに挙げられていた。個人の生活の充実は,産業への寄与と結びつけられた上で全体社会へと還元されると見做されたため,議論には主に経済的な視点が反映されてきたのである。1950~1960年代の社会的共通資本の配分は高度成長期の特性を表し,産業基盤に8割,生活基盤に2割と振り分けられており,産業基盤の偏重傾向を示すものとされる。現代では,社会的共通資本に期待される役割は生活基盤に重点が移行している。生活基盤としての側面については,1970年代の都市化に対しシビル・ミニマムとして議論され,生活権という観点から個々の生活における最低限が論じられた。今日は,育児や介護の社会化など個々の生活を考慮した,社会的共通資本の提供段階に目を向ける必要性が高まっている。しかし,これまでの議論は主に制度の設定や資本の設置による経済学的な意義や効率についての指摘にとどまり,利用段階での提供者と利用者に観点を移した議論はまだ少ない。これは,高度成長期には社会的共通資本の設置が不十分で,どのような視点から資本整備を進めることができるか,いわば設置の正当化に焦点が残っていたことも影響している。しかし,現代の社会的共通資本に求められるのは,個人の利用を前提として個々の社会的行為が関与する機能から政策を評価する段階にあると考えられる。本稿では,社会的共通資本を産業基盤と生活基盤の2面から検討し,生活基盤における新たな人間関係を形成する機能を考察する。