- 著者
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中尾 暢見
- 出版者
- 専修大学人間科学学会
- 雑誌
- 専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
- 巻号頁・発行日
- no.4, pp.101-117, 2014-03
本稿は最初に激増する高齢者犯罪の実態を示す。暴行事件は1990年から2009年までの約20年間で52.6倍と激増している。あまりの激増ぶりに驚く人も多いであろうが、これでも氷山の一角である。なぜならば、これは検挙された数であるため被害者が警察へ被害届を出さない場合も多いからである。今まで被害者と目されてきた高齢者は、いったい何時から、どうして暴力的に豹変したり加害者となってしまったのであろうか。次にその要因として4つの言説を提示した上で検討を行う。白書や主要な研究者は1つ目の言説を支持しているが、筆者はその他に3つの言説を示す。1つ目の高齢者の孤立説では高齢者が社会と家族から孤立するメカニズムを紐解く。2つ目の犯罪コーホート説では犯罪者が多い出生コーホート(世代)を示した上でデータによる検証を行う。パオロ・マッツァリーノの言説では1941年から1946年生まれの出生コーホートを提示しているが、筆者はデータから出生年を1940年から1946年生まれへと修正提示した上で犯罪者が多いコーホートを浮き彫りにして、クローズアップされ続けた少年犯罪は減少傾向にあることを示す。3つ目の認知症説では長寿化に伴い認知機能の衰えた高齢者が増加することで、病気のために犯罪者となり再犯を重ねる傾向のある高齢者像を浮き彫りにする。そして4つ目の確信犯説では窃盗や暴力事件で警察沙汰になっても泣いて謝罪すれば許されるであろう、ボケたふり病気のふりをすれば見逃してもらえる、警察でも拘留されることなく帰宅できる、送検されても起訴猶予になる程度、地位も名誉も失うものは無いからと開き直って犯罪を重ねる悪質な高齢者の存在を示す。戦後の日本社会は、速い速度で劇的に変化を遂げてきた。変化の波乗りは、とても難しい。社会的弱者ほど波乗りに失敗したり、やり直して成功しても何度目かのチャレンジでは失敗して意欲を失って沈んでしまうこともある。溺れる人々が多いのは当該社会にとっては危険なサインである。社会政策の失敗、運用の行き詰まり、変革の必要性を示すサインでもある。加害者の処罰とその対応に追われてばかりいると、次々に新たな加害者を生み出すだけで問題の根治や解決には至らない。犯罪者を生み出さない社会づくりが必要である。高齢者犯罪が激増した要因を分析することは、今日の日本社会を照らすことになる。