- 著者
-
島内 裕子
- 出版者
- 放送大学
- 雑誌
- 放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
- 巻号頁・発行日
- no.33, pp.158-145, 2015
本稿では、近世に出版された徒然草の注釈書の中から、『徒然草吟和抄』(1690年刊)に焦点を当て、その注釈態度を考察する。 本稿が『徒然草吟和抄』に注目するのは、十数種類の注釈書の注釈内容を集約した『徒然草諸抄大成』(1688年)が成立した以後の注釈書であること、および、挿絵付きの注釈書であることの二点から見て、徒然草の注釈書の中で、独自の位置を占めると考えるからである。 この二点に着目して、『徒然草吟和抄』の注釈態度を考察することで、「諸抄大成以後」における徒然草注釈書の可能性を見極めたい。さらには、『徒然草諸抄大成』に集成された注釈書の中から、どの注釈書が、『徒然草吟和抄』において、参照・摂取されている頻度が高いかが明らかになれば、徒然草注釈書の中で、後世に残ってゆく注釈書の特徴も明確になるであろう。 『徒然草吟和抄』は、これまで徒然草注釈書の中で、あまり注目されてこなかったように思われる。それだけに、近世における徒然草注釈の全体像を概観するための、一つの具体例として、貴重な存在であると思う。