著者
小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.47-62, 2011-03

本稿は雑誌を通して日本の民俗研究の形成過程の特徴をとらえる視角を追求しようとするものである。雑誌は、長く大学に講座を持たなかった日本の民俗研究にとって重要なメディアであり、研究の対象を登録し、資料を蒐集するだけではなく、課題を共有し、議論を深めていくためにも活用されてきたことがこれまでも指摘されている。ここでは具体的に一九一三年に石橋臥波を中心に発刊された『民俗』という雑誌が大正のはじめに「民俗」研究の重要性を主張し、国文学や歴史学、人類学の研究者を軸に運営されていたことを明らかにした。さらに同時期の高木敏雄・柳田国男による『郷土研究』との差異が「民俗」を把握する方法意識の差にある点について考察した。さらに一九三二年に発刊された『民間伝承』という雑誌を取り上げ、編集発行にあたった佐々木喜善が置かれていた状況や研究上の課題、雑誌刊行を支えた人脈について考察した。ここからは掲載された論考ばかりではなく、問答や資料報告を含む誌面の構成から、口承文芸を軸に東北を基盤としつつ事例の集積と論考とを共有しようとする姿勢を読みとることができた。雑誌にはその編集発行に携わった人々の研究への構想力が結晶しており、それはこれら二つの雑誌も例外ではない。そしてこのことは、民俗研究の史的展開を考える上で重要である。これまでは長期的に成功を遂げた雑誌に注目する傾向があったが、どちらの雑誌も短命に終わったもののこれらからも汲みあげるべき問題があることが判明した。今後は雑誌を支えた読者とのコミュニケーションの近代的な特色や謄写版といったメディアを生み出す技術との関係も考慮に入れて、雑誌を民俗学史の中に位置づけていく必要があろう。

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この論文がすごくおもしろい。民俗学史の研究で雑に扱われていた短命な雑誌を再評価。 CiNii 論文 -  雑誌と民俗学史の視角--石橋臥波の『民俗』と佐々木喜善の『民間伝承』 (日本における民俗研究の形成と発展に関する基礎研究) -- (学史研究の可能性--方法と射程) https://t.co/tLSACKTc8R #CiNii

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