- 著者
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尾上 修悟
オノエ シュウゴ
ONOE SHUGO
- 出版者
- 西南学院大学学術研究所
- 雑誌
- 西南学院大学経済学論集 (ISSN:02863294)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.1, pp.49-96, 2016-09
ツィプラス政権は,シリザのマニフェストで明らかにされたように,欧州と決別するつもりはなかった。かれらは,あくまでもユーロ圏に留まることを前提として,これまでに遂行されてきた緊縮政策から脱出し,自律的で内発的な構造改革を推進することを意図した。その上で債権団に対して金融支援を求めること,これがツィプラス政権の基本的なねらいであった。果して,それはスムーズに達せられたであろうか。そこには様々な問題が潜んでいた。首相のツィプラスにしても財務相のヴァルゥファキスにしても,対外的な交渉は初めての経験であった。ヴァルゥファキスに至っては,政治家としての経験も皆無であった。かれらにとって,交渉の直接的対象となるユーログループがいかなる組織でどのように運営されているかを知る由もなかった。主たる交渉相手が,政治家というよりはむしろEUのテクノクラートであったことも,かれらにとって大きな障害になったことは容易に想像できる。他方で,他のユーロ圏のパートナーが,そもそもツィプラス政権の基本的政策に対して反対する姿勢を強く示したことは,交渉を一層難しくさせた。ドイツはもちろんのこと,南欧の盟主であり,ギリシャをサポートできるはずのフランスさえも,規律を守る責任と義務を強調しながらかれらに譲歩する姿勢を示さなかったのである。さらには,ツィプラス政権が一枚岩の政策を打ち出すことができなかったことは,大きなマイナス耍因となった。シリザの党内において,穏健派と過激派の対立が当初より見られたし,また連立与党内においても,シリザと独立ギリシャ人党との間で意見の食違いが生じたのである。以上のような様々な要因が絡む中で,ギリシャと債権団の金融支援交渉は初めから難航し,最終的に決裂した。本稿の目的は,そのプロセスを詳細に追跡しながら,一体,両者の間で何が問題になったかを明らかにすることである。そうすることによって,それらの問題が,ギリシャと欧州にとって何を意味するかを考えること,それが本稿の間接的動機となっている。