著者
土屋 礼子
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
no.56, pp.25-43, 2005-03

第二次世界大戦において連合国軍は日本軍に対し、心理戦と呼ばれる宣伝ビラを主力としたプロパガンダを行った。本稿では国立公文書館蔵の第十軍諜報部心理戦班の報告書に基づき、その全体的経緯と当事者が行った評価方法を明らかにした。沖縄戦で用いられた宣伝ビラには三系統あり、一つはハワイ州オアフ島の米海軍太平洋艦隊司令部で作成されたナンバーシリーズ11種、二つ目は沖縄現地で作成されたXシリーズ17種で、これらの内容は日本軍将兵向けと沖細住民向けふたつに大別された。三つ目はやはり沖縄で作成された「琉球週報」と題する新聞形態のXNシリーズ6種である。1945年3月末から7月初めまでに総計八百万枚散布されたこれら宣伝ビラの効果については、日本側から投降した捕域の数、あるいは死者の数に対する捕虜数の比といった数値が評価基準として挙げられた他に、捕虜に対するアンケート調査や尋問による調査も行われた。その結果、日本軍や沖細住民に最も読まれた新聞形態の宣伝ビラが高く評価された。また、ビラのメッセージが心理的に与えた影響は明確ではなかったが、捕虜の数はそれまでの太平洋戦からは予想できなかったほど多く、沖縄における心理戦は成功であったと評価され、今後の戦闘においても心理戦が有効で必要であるとの結論が導き出された。一方、日本軍のプロパガンダは比較にならないほど貧弱なものであった。その後の日本本土攻撃および沖縄占領と日本の戦後統治を考える上でも、また朝鮮戦争などのそれ以降のアジアにおける戦争での心理戦を考える上でも、これらの心理戦の分析は重要な意味を持っている。

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