- 著者
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山田 妙韶
- 出版者
- 日本福祉大学社会福祉学部
- 雑誌
- 日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
- 巻号頁・発行日
- vol.137, pp.117-131, 2017-09-30
精神保健医療福祉施策が平成16 年に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が発表されて以降,「精神障害者退院促進支援事業」,「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」,保護者制度廃止に伴う医療保護入院の見直しによる退院後生活環境相談員の設置など,精神障害者福祉の地域福祉化が進んでいる傾向にある. しかし,精神障害者の中には制度を利用できない人や利用を拒否する者もいる.例えば,精神症状が安定し退院許可が出ているにもかかわらず,再発を恐れて退院しようという決心がつかないまま入院を希望する者がいる.このような患者には,再発への恐怖に対する心理的ケアや再発の対処法・予防法を考えて支援する必要もあろう.つまり,精神保健福祉士(PSW)は,利用者の心理的問題を避けて通れない状況が増えることが予測されよう. 心理的問題の解決はカウンセリングがその専門である.カウンセリングは,言語的および非言語的コミュニケーションを通して,相手の行動の変容を援助する人間関係であり,相手が自らの力で解決する,あるいは解決できるように成長するのを援助することにある1)2)という定義が広く知られているだろう.しかし,近年,「福祉カウンセリング」,「カウンセリングとソーシャルワーク」という書籍やテーマによる論文がみられるように,社会福祉領域の相談援助とカウンセリングの共通性が意識されていると感じる. カウンセリング技法については,精神保健福祉相談援助のための方法として位置づけられている.一般的にいえばカウンセリング技法は,精神保健福祉相談援助ではすでに活用されているが,カウンセリング技法を意識的に活用しているという認識はPSW にはないようである.そのカウンセリングのなかでも近年,ナラティブ・アプローチが福祉や医療保健など幅広い領域で注目を浴びている.福祉や医療保健領域に限らず対人支援の専門職には活用価値のある技法との指摘もある. そこで,精神保健福祉相談援助におけるナラティブ・アプローチの有用性の実証を目指して,事例検討を通して考察することとする.