著者
山田 妙韶
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.139, pp.79-87, 2018-09-30

「寄り添い」という言葉が新聞記事で使用された頻度を調査した研究では,「『寄り添い』の使用頻度は,2000 年前後,2011 年に急激に増加しており,2000 年以降になると医療福祉分野で使用されるようになっている」(前田,中西,井川その他2014:68)が,「寄り添い」を標榜した取り組みもさまざまな場面でなされている.例えば,「寄り添い型相談支援事業」は,一般的な生活上の問題をはじめ,社会的なつながりが希薄な方への相談先として電話相談を行うものである.また,政府がめざす「地域共生社会」では,地域生活の中で本人に寄り添って支援をしていく専門職として保健医療福祉の人材養成の必要性を指摘している(厚生労働省「『地域共生社会』の実現に向けて」).そして,民間の福祉サービス事業所でも,「心に寄り添う」「利用者に寄り添う」などを掲げてサービス提供を行っている.このように「寄り添い」という言葉は,今後福祉領域においても多用されるのではないだろうか. 一方,CiNii の論文検索で「寄り添い」「寄り添う」に関する研究を検索したところ,1992 年以降で2087 件がヒットし研究への関心が高いことが分かる.しかし,「精神障害者」「寄り添い」「寄り添う」での検索でも「精神保健福祉士」「寄り添い」「寄り添う」でも数件しかなく,精神保健福祉領域において,研究はほとんど進んでいないと言えよう.この現状では精神障害者への寄り添う支援は,結果として提供される支援内容も各々の精神保健福祉士自身の経験によるところが大きいこととなろう. そこで,精神障害者の「寄り添い」に関する研究の着想に至った.まず,先行研究の検討を「寄り添う」に関して多くの研究が見られる看護領域を対象に行った.次に,「新人」「熟連」という実務経験年数に着目し,新人精神保健福祉士にフォーカスグループインタビュー調査を行った.新人精神保健福祉士が捉える「精神保健福祉士の寄り添う支援」は,「障がい理解を基盤にして,あきらめないという精神保健福祉士の姿勢と価値観のもと,コミュニケーションスキルを用いて利用者の利益を一番に考えて支援を展開する」と定義された.今後は,熟練精神保健福祉士にも同様のインタビュー調査を行い,新人PSW との比較を通して「精神保健福祉士の寄り添う支援」研究の端緒とすることを研究課題と考えている.
著者
山田 妙韶
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.117-131, 2017-09-30

精神保健医療福祉施策が平成16 年に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が発表されて以降,「精神障害者退院促進支援事業」,「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」,保護者制度廃止に伴う医療保護入院の見直しによる退院後生活環境相談員の設置など,精神障害者福祉の地域福祉化が進んでいる傾向にある. しかし,精神障害者の中には制度を利用できない人や利用を拒否する者もいる.例えば,精神症状が安定し退院許可が出ているにもかかわらず,再発を恐れて退院しようという決心がつかないまま入院を希望する者がいる.このような患者には,再発への恐怖に対する心理的ケアや再発の対処法・予防法を考えて支援する必要もあろう.つまり,精神保健福祉士(PSW)は,利用者の心理的問題を避けて通れない状況が増えることが予測されよう. 心理的問題の解決はカウンセリングがその専門である.カウンセリングは,言語的および非言語的コミュニケーションを通して,相手の行動の変容を援助する人間関係であり,相手が自らの力で解決する,あるいは解決できるように成長するのを援助することにある1)2)という定義が広く知られているだろう.しかし,近年,「福祉カウンセリング」,「カウンセリングとソーシャルワーク」という書籍やテーマによる論文がみられるように,社会福祉領域の相談援助とカウンセリングの共通性が意識されていると感じる. カウンセリング技法については,精神保健福祉相談援助のための方法として位置づけられている.一般的にいえばカウンセリング技法は,精神保健福祉相談援助ではすでに活用されているが,カウンセリング技法を意識的に活用しているという認識はPSW にはないようである.そのカウンセリングのなかでも近年,ナラティブ・アプローチが福祉や医療保健など幅広い領域で注目を浴びている.福祉や医療保健領域に限らず対人支援の専門職には活用価値のある技法との指摘もある. そこで,精神保健福祉相談援助におけるナラティブ・アプローチの有用性の実証を目指して,事例検討を通して考察することとする.
著者
山田 妙韶
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.117-131, 2017-09-30

精神保健医療福祉施策が平成16 年に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が発表されて以降,「精神障害者退院促進支援事業」,「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」,保護者制度廃止に伴う医療保護入院の見直しによる退院後生活環境相談員の設置など,精神障害者福祉の地域福祉化が進んでいる傾向にある. しかし,精神障害者の中には制度を利用できない人や利用を拒否する者もいる.例えば,精神症状が安定し退院許可が出ているにもかかわらず,再発を恐れて退院しようという決心がつかないまま入院を希望する者がいる.このような患者には,再発への恐怖に対する心理的ケアや再発の対処法・予防法を考えて支援する必要もあろう.つまり,精神保健福祉士(PSW)は,利用者の心理的問題を避けて通れない状況が増えることが予測されよう. 心理的問題の解決はカウンセリングがその専門である.カウンセリングは,言語的および非言語的コミュニケーションを通して,相手の行動の変容を援助する人間関係であり,相手が自らの力で解決する,あるいは解決できるように成長するのを援助することにある1)2)という定義が広く知られているだろう.しかし,近年,「福祉カウンセリング」,「カウンセリングとソーシャルワーク」という書籍やテーマによる論文がみられるように,社会福祉領域の相談援助とカウンセリングの共通性が意識されていると感じる. カウンセリング技法については,精神保健福祉相談援助のための方法として位置づけられている.一般的にいえばカウンセリング技法は,精神保健福祉相談援助ではすでに活用されているが,カウンセリング技法を意識的に活用しているという認識はPSW にはないようである.そのカウンセリングのなかでも近年,ナラティブ・アプローチが福祉や医療保健など幅広い領域で注目を浴びている.福祉や医療保健領域に限らず対人支援の専門職には活用価値のある技法との指摘もある. そこで,精神保健福祉相談援助におけるナラティブ・アプローチの有用性の実証を目指して,事例検討を通して考察することとする.
著者
山田 妙韶
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.143, pp.13-26, 2021-03-31

精神保健福祉士(以下,要旨で PSW)に「寄り添う支援」についてのインタビュー調査を行い,1 年目と 3 年目の比較(縦断研究)をすることで,経験年数による共通性や差異を見ることを目的とした.PSW の資格修得後,実務経験 1 年目と 3 年目の調査に協力いただける PSW 6 名にフォーカス・グループ・インタビューを行った.質的統合法で分析を行った.その結果,以下の点が分かった.① 1 年目で語られていた話題が3 年目では語られていない.②同じ表題名でありながらとらえ方が変わった.③ 1 年目で定義づけされた「PSW の寄り添う支援」が 3 年目では定義するに至らなかった.④1 年目の調査では語られなかった「伴走」について 3 年目にその実践が語られた.以下4 点を今後の課題とする.①「寄り添う支援」を PSW の業務の文脈で考察する.②熟練 PSW へのインタビュー調査を行い実務経験の年数の点から考察する.③「寄り添い/寄り添う」と「伴走」との異同について考察することである.④インタビュアーの向上.
著者
山田 妙韶
巻号頁・発行日
no.143, pp.173-183, 2021-03-31

2000 年から実施された成年後見制度では複数後見が認められた.その複数後見における支援の形態としては専門職後見人と親族後見人などが考えられる.そして,支援は権限分掌として分担することが主であるが,「権限の分掌はうまくいくことが難しい」とも言われている.複数後見人の関係性が被後見人に不利益をもたらすことを考慮すれば,たとえ権限分掌であっても相互に協力しなければならないことは自明であろう. 一方で,精神保健福祉士が成年後見人として選任される場合は,多くの法律家が不得手として敬遠することが多い知的障害者や精神障害者の後見を期待していることが少なくない.今回,筆者は,統合失調症と認知症をもつ成年後見人として身上監護を行い,法律実務家が財産管理を行うという権限分掌で受任した.そこで,筆者の後見人の実際を報告し,複数後見における精神保健福祉士の役割を考察した.その役割とは『被後見人の気持ちに寄り添う』実践をすることではないだろうか.