- 著者
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黒沢 文貴
- 出版者
- 東京女子大学
- 雑誌
- 東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.2, pp.145-154, 2009-03
日露戦争の勝利とそれにともなう日本の大陸国家化、そして第二次日英同盟協約の締結とは、日本軍部に大きな衝撃を与えた。陸海軍にはそれぞれ、日本の大陸権益と植民地の維持・拡大を直接的に支える陸軍と、大陸との海上輸送ルート(シーレーン)の確保と対外的抑止力としての海軍という、日本の大陸政策を支える新たな位置づけが与えられたのである。日英攻守同盟は、ロシア海軍の再建を抑止するという点で、日本海軍に相応の軍事的利益を与えるものであった。しかし、ロシアの対日復讐戦を想定する陸軍にとっては、必ずしも純軍事的利益をみいだせるものではなかった。そうした日英同盟評価とロシアを念頭においた種々の国際認識や国防上の見通しが、日英露仏の接近を促す日露戦後の帝国主義的国際環境の変化のなかで、1907年7月の第一次日露協約締結に日本を向かわせる重要な要因となったのである。こうして日露戦後の日本軍部、とくに陸軍は、日英同盟と日露協約の価値と有効性とを常に注視しながら、帝国日本の大陸政策の一翼を担っていたのである。