著者
桑山 由文
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.157-191, 1996-03

個人情報保護のため削除部分あり元首政期ローマ帝国において、本来極めてわずかな軍事権限しかもち得なかった近衛長官職は、徐々に国政における役割を増やしていき、三世紀の軍人皇帝時代には、国政運営の様々な面において指導的役割を果たすようになった。そればかりか、帝位を纂奪する近衛長官さえしばしば出現したのである。先行研究ではこのような近衛長官隆盛の基はセウェルス朝期に築かれたとし、特に法学者パピニアヌスらが連続して近衛長官職に就いたことが近衛長官職の内政的側面の発達の画期であると理解し、重視してきた。しかし、本稿における検討の結果、法学者近衛長官の意義は低いものであり、近衛長官職発展の画期は、従来軽視されてきた五賢帝期後期であったことが明らかになった。この時代に、近衛長官職は権限・地位が上昇して職務として確立したのである。騎士身分を中心とする三世紀半ばの政治体制へと元首政が移行していく基盤は、五賢帝期後期に成立したといえよう。

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