著者
塚本 明
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.819-851, 1996-11

個人情報保護のため削除部分あり近世日本の朝鮮観については、主に朝鮮から江戸幕府に派遣された朝鮮通信使を通して論じられてきたが、その総体を把握するためには当時の社会における朝鮮に関する知識の多様な要素を検討する必要がある。本稿はそのひとつとして、これまで十分な分析がなされてこなかった神功皇后伝説の影響について考えるものである。 神功皇盾伝説は蒙古襲来を期に、朝鮮を畜生視する内容を伴うようになる。だが秀吉の朝鮮侵略後には、神国観の転換に規定され思想家レベルでは中世的観念を脱し、近世中期以降には『古事記』、『日本書紀』に基づいて朝鮮蔑視論が展開される。しかし民衆の祭礼、信仰などの世界においては、中世的な伝説・異境観により、朝鮮を犬、あるいは鬼と表現する蔑視観が存在した。これらは統治者、思想家の影響によるものではない、近世民衆独自の朝鮮観であり、そして近代初期の征韓論を支え、また明治国家が神功皇后を国民統合のシンボルとなしえた、社会的な背景でもあった。

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"『日本書紀』に拠り国体を論じる思想家や朝鮮を国威拡張の対象と見る政治家らとともに、中世的伝説に由来するあからさまな蔑視観に基づき、征韓論を是とする「感覚」が…民衆にも明らかに認められる" →ブクマ

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