著者
朴 永哲
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.570-597, 1997-07

個人情報保護のため削除部分あり従来、中国法制史の研究に於いては概ね制度の外郭解明に比重が置かれてきたが、社会と人々の意識の次元から法を捉えることが必要であると筆者は考える。かかる問題意識より本稿は主に太平広記所収の唐代入冥譚を題材として当時の中国人の法意識を探ろうとするものである。そこに見える地獄の裁きは現実の律令裁判の模倣であったが、次第にその裁きは宗教的厳格さを失い世俗化していくとともに、ついには裁きの消滅、地獄の現世への従属を見るに至る。それは中国における伝統的な不死の信仰と、神による正義の実現なる西洋的法観念の欠如がもたらした結果であったが、またそこには現世の人情を裁きの基準とする「原情主義」の現れをも看取することができる。「原情主義」は現実の律と裁判に於ける基本原則の一であり、その地獄説話への反映は当時の中国人の意識における正義の所在を示すものと考えられる。

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