著者
鈴木 直志
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.71-97, 2010-01

フランス革命・ナポレオン戦争は、それまでの限定的な王朝戦争から苛烈な国民戦争へと戦争の性格を激変させたことから、ヨーロッパ戦争史の一大転換期として広く知られている。現代ドイツの歴史家クーニッシュはこの変容のことを「戦争の女神ベローナの解放」と表現したが、彼も指摘するようにこの過程は、思想史の次元では革命前の啓蒙期からすでに始まっていた。本稿は、この啓蒙の時代に交わされた戦争と平和の論議、中でも、わが国ではまったく知られていない戦争肯定論を中心にして、思想史におけるベローナの解放過程を明らかにするものである。その際とりわけ強調されるのは、永久平和論と戦争肯定論が、市民的公共圏の成立とバトリオティズムの議論を背景にして、表裏一体の関係にあったことである。両者はいわゆる啓蒙の弁証法の関係に立ちながら、戦争が本来もつ破壊的性格をそれぞれの論理で再び露呈させ、ベローナを解き放ったのであった。

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