- 著者
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岩本 佳子
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.93, no.2, pp.282-309, 2010-03
遊牧民の歴史研究において、定住化という現象は各地で見られてきたが、その要因や内容について明らかにされてきたとは言い難い。本稿では、法令集、租税台帳といった財務帳簿から、史料を作った行政側の遊牧民認識に主軸をおいて一六世紀前半の中央アナトリアに位置するボゾク県を対象として、遊牧生活を送っていた遊牧民が同地に急速に定住化していった理由を明らかにする。同時代のボゾク県では、行政側がボゾク県の住民を遊牧生活に従事する「遊牧民」から村に定住し農耕に従事する「農民」として扱うようにその認識が変化した。そのために、ボゾク県住民から徴收される諸税の大半が農耕に関連する税に移行し、部族集団から村単位で地域の区分がなされるに至り、村の大幅な増加を生んだ。すなわち、同地での「定住化」には住民を遊牧民ではなく農民として認識するようになったという行政側の認識の変遷が大きく寄与していたのである。