- 著者
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立川 ジェームズ
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.97, no.2, pp.308-340, 2014-03
近年、中世初期の集会を聖俗の制度に区別し、制定された法規の分析を重視する伝統的な研究手法が問題法されている。こうした研究動向をふまえ、本稿ではメロヴィング朝の前半期を対象として、これまで「教会会議」として一様に理解されてきた synodus の史料におけるイメージの分析を試みた。決議史料においては聖職者のみの宗教的な集会のイメージが顕著なのに対し、トゥール司教グレゴリウスの記述や勅令においては、王権に直結した、聖俗にとらわれない役割を持ったイメージが描かれた。これは従来の「教会会議」という集会概念により捉えきれない柔軟な synodus の実態を示す。同時に、史料における synodus の取り上げ方の相違が、聖・俗や王権・教会の関係をめぐる同時代人の意識と密接に関わることを指摘した。これは七世紀以降に一層進展するといわれる王権のキリスト教化、さらにはカロリング朝との関係を考える上でも承平的である。