- 著者
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中山 俊
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.99, no.3, pp.388-418, 2016-05
一九世紀前半のトゥールーズの都市計画には、町の衛生の改善や経済的利益の獲得だけではなく、美しい景観の創造や記念物の保存を通じて、学術・芸術の町、「パラスの都市」として栄えていたという地元の歴史的記憶の想起を企図したものもあった。その代表例がフランス革命以前から構想されていたサン=セルナン教会堂の隔離工事である。市は教会勢力等の反対意見を抑え隔離を実行に移す中で、教会堂に隣接し見栄えの劣る旧サン=レイモン寄宿学校の解体を予定したが、中央政府と愛好家はこの計画を中止させた。中央政府はこの記念物にフランスにとって重要な歴史的価値等を、愛好家は地元の歴史的記憶等を見て取ったからだった。隔離工事の実行過程は、一九世紀前半からすでに中央と地方による歴史的記念物の評価に強調点の差異があったこと、地元の愛好家はフランスへの愛着を世紀後半期と比べるとさほど強調していなかったことをも明らかにするものだった。