- 著者
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渡辺 浩一
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- no.94, pp.117-150, 2019-09-30
本稿は、近世後期の江戸における火事見舞と民間施行の関係について論じる。火事見舞については金融商播磨屋中井家と作家滝沢馬琴の例によって分析した。その結論は以下の通りである。火事見舞とは、類焼範囲が異なる火災が繰り返されることによって物品提供者は同時に物品受取者にもなることができる、すなわち物品受取者と提供者の互換性=互恵性があると言える。さらに、物品提供と労働力提供の二つの局面があり、提供された物品が労働力提供者に供給されるという構造になっていた。これは、社会関係資本の多い被災者を媒介として、面識がない物品提供者と労働力提供者が結びついていることを意味する。しかも両者の関係は、酒食と労働力の交換関係であることを押さえておきたい。また、これは水害時に行われた民間人による施行と類似する部分があることが明らかになった。