- 著者
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新名 隆志
- 出版者
- 鹿児島大学
- 雑誌
- 鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
- 巻号頁・発行日
- no.71, pp.9-28, 2020
筆者はこれまでの研究成果において,力への意志の本質を,抵抗の克服活動における力の発揮の快が自己自身を欲するというあり方において捉えてきた。この解釈は,ニーチェの遊戯概念についてこれまでにない明晰な理解を可能にする。後期思想において,力への意志は生の活動,さらには自然界の運動一般の原理と考えられているが,このような活動の捉え方の原型は,1880年―81年の遺稿断片における,行為を遊戯として捉えるニーチェの行為論に見出される。力への意志説は,この行為論の発展形態として捉えることができるのである。萌芽的な行為論が力への意志説へと花開く過程で決定的なインスピレーションを与えたのが,初期の論考,「ギリシア人の悲劇時代の哲学」におけるヘラクレイトス思想の解釈である。抵抗の克服の遊戯として理解できる力への意志は抵抗の克服の遊戯として理解できるが,そのモデルは,初期のニーチェがヘラクレイトス思想の内に見た戦いの遊戯と考えられる。この戦いの遊戯としての遊戯観が,『喜ばしき学問』準備期のニーチェに大きなヒントを与え,以後の力への意志説の彫琢を可能にしたのである。