- 著者
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鈴木 宏子
- 出版者
- 千葉大学教育学部
- 雑誌
- 千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
- 巻号頁・発行日
- vol.68, pp.424-420, 2020-03
[要約]『土佐日記』は、五十五日間におよぶ舟旅の日記であり、旅の始まりから終わりまでの枠組みの中に五十五日分の小単位が連なるという構造を持つ。そして、それら小単位の中には、その日に起きたことや思ったことでさえあれば、どのような内容でも書き込める自由さがある。小稿では『土佐日記』の中から三つの場面を取り上げて、この作品の多彩な魅力を探りたい。一つめは二月五日条で、舟旅の困難さや、世俗の人へのシニカルな批評意識、また緊密に照応しあう言葉の連鎖が看取される。二つめは十二月二十七日条で、土佐で亡くした幼い娘に対する悲嘆と思慕が書き記される。三つめは一月二十日条で、月の出入りを通して海の広がりを捉える方法や、『古今集』撰者でもある紀貫之の文学論を読み取ることができる。