- 著者
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陳 馳
- 出版者
- 京都大学大学院人間・環境学研究科
- 雑誌
- 人間・環境学 = Human and Environmental Studies (ISSN:09182829)
- 巻号頁・発行日
- no.29, pp.93-103, 2020-12-20
三日月は太陽の光を反射する角度により, 一ヶ月の中で最初に夜空に出てくる月である. 国文学では三日月はなかなか待月と結びつきにくいが, 中国では一ヶ月中, 全ての月が待月の対象となっているため, 中国の漢詩文には三日月の待月は存在する. 平安時代において, 三日月の待月の国文学の例は見られないのに対して, 漢詩文では, その受容は一時見られるが, やはり広く浸透しなかったのである. その原因は, 平安時代において, 待月といえば満月以降の月という印象が強すぎたためと考えられる. しかし, 鎌倉時代に入ると, 初秋の三日月という表現から派生した, 悲秋観を表す待月の例が見られるようになった. さらに時代が下ると, 三日月の待月は春の三日月も詠まれるようになって発展を遂げた. ただし, いずれの三日月の待月は, 漢詩文の表現と通じる部分があるが, 独特な感性が感じられる, 日本独自の観月の表現であり, 漢詩から受容したものではなかったと言えよう.