著者
鈴木 将史 Masashi SUZUKI
出版者
創価大学教育学部・教職大学院
雑誌
教育学論集 (ISSN:03855031)
巻号頁・発行日
no.73, pp.171-187, 2021-03-31

筆者は2018年4 月から3 年間の計画で、「江戸期の和算における教育課程の探究を通した算数・数学教育刷新の提案」とのテーマのもと科学研究費補助金を受けて研究を続けてきた。そもそもの発想は、「江戸時代には和算と呼ばれる数学が大変発達し、日本全国で算術教育を行う塾が盛んであったことはよく知られているが、そこではどのような教育課程に従って算術が指導されていたのであろうか?」という疑問であった。教育である以上、流派や地域によって異なるとはいえども何らかのカリキュラムがあり、ある種の指針に従って算術教育が行われていたに違いないであろうと考えたのである。その上で筆者は、日本の津々浦々、農村部に至るまで、多くの人々が楽しく数学を学んでいたという江戸時代の教育のあり方が、「数学離れ」を克服できない日本の数学教育において、新たな風を呼び起こすヒントになるのではないかとも考えた。 コロナ禍で移動が大幅に制限されたこともあり、全国の算術塾の調査が進んだとは言えなかったが、2019年に訪れた長野県で見聞した江戸時代の数学研究の様子や、それ以前に知った至誠賛化流と呼ばれる和算の流派の活動状況等から、江戸時代にはある種の「常識」として、数学が広く、しかも自発的・積極的に研鑽されていたことを知ることができた。 そのような研究の一環として、筆者は昨年発表した論考「和算流による算数・数学教育改革の試み」において、和算の醍醐味が算術塾における問題作りにあったこと、そして同様な作題活動を取り入れることが算数・数学教育を活性化させること、またそれが「創造的なアクティブラーニング活動」につながり、文部科学省の目指す「主体的・対話的で深い学び」にも通じることを主張した。ただ、そこで提案した作題は、あくまでも「学習を活性化させる方法・手段としての作題」であり、紹介した例も、既存の問題をつなぎ合わせる方法のみであった。 本稿ではその考えをさらに進め、もっとたくさんの「作題」を取り入れる方法について述べるとともに、和算のレベルを飛躍的に向上させた「遺題継承」と呼ばれる方式にならい、算数・数学をより「深い学び」へと導く方策について考察したい。

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鈴木 将史 - 和算の「遺題継承」と算数・数学の「深い学び」 【江戸時代の教育のあり方が、「数学離れ」を克服できない日本の数学教育において、新たな風を呼び起こすヒントになるのではないかとも考えた】 https://t.co/MUAKtKJXx5
鈴木 将史 -  和算の「遺題継承」と算数・数学の「深い学び」 【江戸時代の教育のあり方が、「数学離れ」を克服できない日本の数学教育において、新たな風を呼び起こすヒントになるのではないかとも考えた】 https://t.co/a1EOis9XR0

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