- 著者
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筒井 大祐
- 出版者
- 佛教大学総合研究所
- 雑誌
- 佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
- 巻号頁・発行日
- no.28, pp.1-16, 2021-03-25
『平家物語』の伝本のひとつである長門本には、他の諸本に見えない独自の地方説話群が記され、それが長門本の成立状況を解明する鍵として研究されてきた。本稿では、そのような地方説話群の内、大隅正八幡宮縁起を取り上げる。長門本の大隅正八幡宮縁起には、中世期の「八幡御因位縁起」を始めとする諸資料に見えない、独自の記事を有するが、その独自記事と内容が共通する資料として、六郷山縁起類がある。そこで本稿では、まず長門本と六郷山縁起類の本文の比較を通して、長門本の大隅正八幡宮縁起が、長門本独自の異伝ではなく、近世期に大隅正八幡宮の歴史を語る正統な縁起であった点を指摘する。その上で、その縁起の内容が変容した背景を、中世後期の大隅正八幡宮における社殿の炎上とその再興によるものであると結論付けた。長門本『平家物語』『八幡御因位縁起』大隅正八幡宮六郷満山『六郷開山仁聞大菩薩本紀』