著者
黒田 乃生
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.645-650, 2009
被引用文献数
1

日本は1992年にユネスコの「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」を締結し、現在11件の文化遺産と3件の自然遺産が世界遺産一覧表に記載されている。世界遺産委員会では自然環境への人間の働きかけの結果生み出された「自然と人間との共同作品」である「文化的景観」のように、自然的要素を有する文化遺産の保護が進められている。文化遺産における自然的要素としては、植物相や動物相、地質や地形、土壌などがあげられるが、これらについては自然遺産保護と文化遺産保護の双方の視点が欠かせないという指摘もある。しかし、実際には文化遺産はICOMOS、自然遺産はIUCNが、国内でも文化遺産は文化庁、自然遺産は環境省がそれぞれ評価と保護の措置を所管しており、文化遺産における自然的な価値の保護が包括的な体系の下に行なわれているとは言いがたい。また、日本では「紀伊山地の霊場と参詣道」における林業関係者による抗議の落書きの例のように、時間の経過や人為によって変化する森林のような自然的要素について、その役割と保護管理の手法が明確になっていない面もあると考えられる。以上の背景から、本研究では自然的要素である森林を対象として、日本における世界文化遺産の登録資産及びそのバッファーゾーンにおける現状を把握し、保護のありかたについて考察することを目的とする。The comprehensive protection of cultural and natural heritage has been an issue and has also been discussed by the World Heritage Committee. Through an analysis of the current situation of forests in the World Cultural Heritage Sites, the following points are clarified. In general, 74% of all properties and 77% of properties and buffer zones are covered with forests. Within the forest area, 36% of the forests are planted forests and 20% are national forests. Most of the forests have been under the influence of human activity, which has resulted in characteristic vegetation. A local-government level forest management plan that corresponds to the character of the forests and provides comprehensive protection to the cultural and natural elements is essential. Moreover, the evaluation process for cultural heritage should incorporate specific description of the vegetation as this will lead to an objective assessment and effective management plan.

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