- 著者
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金 龍洙
- 出版者
- 社団法人日本造園学会
- 雑誌
- 造園雑誌 (ISSN:03877248)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.3, pp.10-17, 1979-02-15
古代ギリシャでは,マテネでアドニス祝祭が女性により壮厳に行なわれた。それが,いまもギリシャの所々でアドニス・ガーデンの風習として生き続け,とくにセェレェー村では復活祭にこの行事が盛んである。 本研究は,アドニス庭の形成と推移を歴史的に考察し,現代のギリシャ庭園に及ぼした影響を検討したものである。 文献によればアドニス祝祭は紀元前5世紀に遡る。美男アドニス神の若い逝去を悼んで,若い女性らが,こわれたエムプラ (ギリシャの壷) を逆にして,なかに土を埋め草花を栽培した。草花の枯死はアドニス神の死と復活を象徴するもので,植物の再生と成長を促進する呪術的な行為とされた。とくに注目すべきことは,こわれたエムプラの残りを逆さにして,それを鉢として使用した点である。 この風習はギリシャ人の生活に深くしみ込み,形こそ変わったが,いまでもいたるところでアドニス・ガーデンがみられるし,ポット・ガーデンのオリジンとみることもできる。 なおアドニス・ガーデンは豪華な造園ではなく,庶民の情緒的な小庭園であるところに,大きな意味があると思われる。