著者
太田 拓紀
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF EDUCATIONAL SOCIOLOGY
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.169-190, 2012

教師の職業的社会化は養成段階にて始まるわけではない。例えば,ローティは長期間に及ぶ生徒としての学校生活や教師との対面的接触を「観察による徒弟制」と称し,教職の社会化過程として捉えた。この理論的枠組に依拠し,本稿では教員志望者における過去の学校経験の特性を明らかにするとともに,その過程にいかなる教師の予期的社会化作用が潜んでいるのかを検証・考察することを目指した。<BR> まず,大学生対象の質問紙調査のデータから分析を行い,家族関係,学業成績の影響を統制した上でも,生徒時代におけるリーダーの経験が教職志望の判別要因として効果の強いことが明らかになった。それはいずれの学校段階の教員を志望するにしても同様の結果であった。<BR> 続いて,教員志望学生対象のインタビュー調査の結果から,リーダーに教師役割が委任され,指導的なふるまいが期待されていたことに着目した。そしてその過程に,教職への志向性を高める契機が含まれていると考えられた。ただし,指導的な行為に伴う彼らの葛藤は,この段階での社会化の限界を示唆するものであった。また,彼らに教師役割の委任を可能にするのは,学校文化に同化した性向が関係していると考察した。<BR> 最後に,「観察による徒弟制」の観点から,学校経験の過程で形成される教育観には養成段階の教育効果を損なう問題があると論じ,教師教育は過去の学校経験と養成教育との接続にも目を向けるべきであると提起した。

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