- 著者
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山階 芳麿
- 出版者
- 公益財団法人 山階鳥類研究所
- 雑誌
- 山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.1, pp.43-57, 1978
本文は文献表にかかげたソ連邦,韓国,中華人民共和国の新しい文献により,日本に多く見られる3種のツル,タンチョウ,マナヅル,ナベヅルの大陸に於ける現状を解説した。<br>1.タンチョウ<i>Grus japonensis</i><br>大陸における蕃殖地はソ連邦ではアムール川中流,ウスリー川中流,ハンカ湖東岸にあり,この3ヶ所に蕃殖期に見られるタンチョウの総数は約80羽であるという。又満州の松花江の沿岸にも数ヶ所の蕃殖地があるが,その数は多からず,正確な数は報じられていない。これ等のタンチョウは渡り鳥で,約半数は韓国に,残りの半数は中国の東部に越冬するようである。<br>2.マナヅル<i>Grus vipio</i><br>マナヅルの蕃殖が近年確められたところは,沿海州の中部•アムール川中流の湿原及び満州西北部の札蘭屯附近である。しかしそこに蕃殖する数は越冬地に来る数より遙かに少ないので,他に蕃殖地があると思われる。そしてソ連邦及び中国の鳥学者の一致した推測では,バイカル湖東岸附近,蒙古のKerulen川及びOnon川流域であろうという。上記のマナヅルの全部は渡り鳥で,約2700羽が先ず朝鮮の中部,特に漢江下流に来る。そしてその大部は朝鮮の中部の西岸に止まるが,一部は日本の荒崎に来る。近年荒崎に来るマナヅルの数が急激に増加しているのは,朝鮮に於けるマナヅルの越冬地である西海岸の干潟が,干拓によって狭められたためであるらしい。<br>3.ナベヅル<i>Grus monacha</i><br>ナベヅルの蕃殖地は,ウスリー川の右岸の中国領内で少数蕃殖するかも知れないが,それ以外は全部ソ連邦領内である。それはエニセイ川の支流のツングスカ川流域から,Lena川の支流,ことにViljni川流域,Olekno-charekoe高原等で,一部はアムール川中流及びウスリー川中流にも蕃殖する。蕃殖区域は東西2000km.,南北1500kmに及ぶ。そこで蕃殖する約2800羽のナベツルは満洲及び沿海州を通って日本の荒崎等へ来て越冬するが,中国及び朝鮮では極めて稀にしか観察•採集されていない。そこで,どこを通って飛んで来るかという事が今後の研究問題である。又このようにナベヅルの殆んど全部が日本へ来て冬を越す事がわかったので,ナベヅルの保存については日本の責任が重大である事が再認識されねばならない。