- 著者
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仲谷 一宏
白井 滋
- 出版者
- The Ichthyological Society of Japan
- 雑誌
- 魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.1, pp.37-48, 1992
1978年から3年間, 沖縄舟状海盆, 九州-パラオ海嶺, 茨城県から青森県に至る本州北部太平洋の陸棚斜面 ("東北沖") および北海道のオホーツク海陸棚斜面 ("オホーツク沖") において大規模な深海魚類調査が実施された.<BR>この中で著者らは軟骨魚類の分類を担当し, 水深200-1, 520mで行われた584回のトロール漁獲物から61種の深海底生性軟骨魚類を確認した.また, これら4調査海域に加え, 尾形他 (1973) による日本海でのトロール結果を含めて軟骨魚類相を検討した結果, 各々の海域が極めて特徴的な深海底生性軟骨魚類相を有することが判明した.沖縄舟状海盆は非常に多様性に富んだ海域で, 多くの分類群に含まれる37種が出現し, 中でもツノザメ科, トラザメ科, ガンギエイ科 (ガンギエイ属) の種が優占した.九州-パラオ海嶺には10種が出現し, その構成は比較的単純で, ツノザメ科の種が多く, ガンギエイ科やギンザメ目の種は出現しなかった.東北沖では18種の比較的多様な軟骨魚類が出現し, ガンギエイ科 (ソコガンギエイ属) の種が最も多く, ツノザメ科の種がこれに次いだ.オホーツク沖では軟骨魚類の構成は単純で, 2科9種が見られ, その大部分がガンギエイ科 (ソコガンギエイ属) の種であった.日本海で見られた深海底生性軟骨魚類はガンギエイ科 (ソコガンギエイ属) のドブカスベ1種で, 他の海域に比較して極めて貧弱な軟骨魚類相であることを再確認した.<BR>これらの深海底生性軟骨魚類の分布は琉球海溝等の超深海や対馬海峡等の浅海域の存在により大きな影響を受けているものと考えられる.また, 多くの種が出現した分類群について日本周辺での分布の特徴を調査した結果, 伊豆半島から南下する巨大な七島・硫黄島海嶺が深海底生性軟骨魚類の分布に大きな影響を与えているものと考えられた.すなわち, 中浅海部を黒潮で覆われた七島・硫黄島海嶺は, 特に北方産の深海底生性軟骨魚類の多くにとって越え難い障壁となっており, さらに, 北方深海底生性の魚類一般についてもこの考えを拡大できる可能性が示唆された.