- 著者
-
笹谷 康之
遠藤 毅
小柳 武和
- 出版者
- 公益社団法人 土木学会
- 雑誌
- 日本土木史研究発表会論文集 (ISSN:09134107)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, pp.141-146, 1987
古代には、神奈備山と呼ばれ神が宿るとされた信仰対象の山が存在した。全山が樹林におおわれ、笠型の端正な山容を持った山で、集落近くに位置する。その山体や、山を望む場所には、祭祀場、神社が設けられていた。本研究では、この神奈備山の分布、スケール、地形形態を明らかにするとともに、山を祀っていた祭祀遺跡・神社の地形占地・景観的特徴を考察した。その結果、次のようなことがわかった。<BR>(1)、神奈備山は、東北から九州北部まで広く全国に分布する。<BR>(2)、神奈備山を祀る神社・祭紀遣跡は、山頂、山腹、山麓と、山を望み山から引きをとった平地の4カ所に立地している。<BR>(3)、神奈備山は、おおむね比高400m以下の小さな山である。<BR>(4)、神奈備山を祀る神社・祭遺跡は、山を眺望しやすい仰角14°以下の平地と、山との一体感の得やすい仰角10°~30°の山麓に多く立地する。<BR>(5)、神奈備山の景観は平地からは端正な山に見えるが、その地形は、孤立丘、山地端部の端山、山地端部の尾根、等高線が比較的入りくんだ小山塊の4タイブに分類できる。<BR>以上の性質を持つ神奈備山は、日本人の原風景の一つでありまだまだ全国に埋もれていると考えられる。しかし、大都市近郊の神奈備山の中には、開発によって破壊された例もある。古代人が育んできた精神性の強い文化遺産として、神社、祭紀遺跡ともども、神奈備山の景観保全を進めていく必要がある。