著者
高田 知紀 梅津 喜美夫 桑子 敏雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題) (ISSN:21856621)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_167-I_174, 2012 (Released:2013-01-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1 10 5

東日本大震災では,多くの神社が津波被害を免れたことが指摘されている.本研究では,日本の神社に祀られる祭神の多様性は,人びとの関心に応じた差異化の結果であるという仮説から,宮城県沿岸部の神社についてその祭神と空間的配置に着目しながら被害調査を行った.祭神については特に,ヤマタノオロチ退治で知られるスサノオノミコトに着目した.スサノオは無病息災の神として祀られることから,洪水や津波といった自然災害時にも大きな役割を果たすと考えられる.また,地域の治水上の要所に鎮座していることが多い.東北での調査から,スサノオを祀った神社,またスサノオがルーツであると考えられる熊野神社は,そのほとんどが津波被害を免れていることを明らかにした.この結果は,地域の歴史や文化をふまえたリスク・マネジメントのあり方について重要な知見を提供する.
著者
佐藤 久長 西田 匡志 柏木 悠 櫻井 光昭 青木 隆志
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1-11, 2021 (Released:2021-01-20)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

脳機能データの分析から聴覚情報による認知効果の向上が確認され,トンネル内におけるスピーカーを用いた音声による注意喚起システムが開発された.今回,このシステムを用いて従来視覚情報で行っていた渋滞時の速度回復情報提供を,国内で初めてスピーカーを用いた音声案内で実施した.本研究では,システムの概要と小仏トンネルへの適用方法を示すと共に,車両感知器によるデータとETC2.0プローブデータによる走行履歴データを用いて音声情報の有無による効果を検証した.その結果,例えば音声情報が有ることによりボトルネックの渋滞発生時交通量が約8%増加し,渋滞中の平均速度が約10%高くなることや,渋滞発生確率が低下すること等を明らかにした.また音声案内によるボトルネック付近の速度上昇効果が上流側にも及んでいることが推察された.
著者
松本 敬司 福岡 捷二 須見 徹太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.I_793-I_798, 2013 (Released:2014-03-31)
参考文献数
9
被引用文献数
3

The Tanaka, Sugo, Inadoi retarding basins which are located along the Tone River have an important role on flood control in the lower Tone river. The lower Tone River has some flood control problems such as flood discharge capacity of the river. In this paper, we developed the unsteady two-dimensional analysis of flood flows using the time series data of observed water surface profiles in the Tone River including the three retarding basins. The calculation model provides a good explanation for flood storage volume in the three retarding basins of 2001 and 2007 floods. Some remarks are given to calculate correct hydrographs of flood storage volume in retarding basins.
著者
上田 大貴 川端 祐一郎 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.II_668-II_676, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
24

2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は,健康被害のみならず,感染症対策のための社会活動制限を通じて,経済にも大きな損失をもたらした.本研究では,2020年第2・第3四半期において,新型コロナウイルス感染症対策のための行動制限が各国のGDPに与えた影響を44ヵ国のデータを用いて検討し,行動制限がGDPを大きく低下させることを確認する.また,データの比較が可能なG7各国について,労働者の賃金に対する政府補償の充実度合いが行動制限及びその緩和に与える影響についての実証研究を行った.その結果,政府による補償の充実は感染拡大を抑止するための行動制限を促進する効果とともに,制限の解除時においては経済活性化の促進効果を持つことが示唆された.
著者
洲崎 文哉 樫山 和男 琴浦 毅 石田 仁 吉永 崇
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F3(土木情報学) (ISSN:21856591)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.I_131-I_139, 2021 (Released:2021-03-15)
参考文献数
14

本論文は,iOSに対応したARKitを用いて,地下埋設物の設計・施工・維持管理を支援するAR可視化システムの構築を行ったものである.具体的には,地下埋設物のCADモデルを設計図面上に重畳させるシステムおよび現地においてCADモデルを重畳させるシステムの構築を行った.設計図面上にCADモデルを重畳させるシステムでは,3次元都市モデルを同時に重畳することで位置関係の把握を容易にした.また,現地においてCADモデルを重畳させるシステムでは,地下埋設物のAR可視化を現地において違和感なく行うマスキング処理について検討するとともに,CADモデルの重畳位置の精度を向上させるための方法について検討を行った.本システムの有効性を検証するため,実際の埋設構造物のAR可視化に対して適用を行った.
著者
梯 滋郎 中村 晋一郎 沖 大幹 沖 一雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.I_1489-I_1494, 2014 (Released:2015-05-18)
参考文献数
10
被引用文献数
4

In Japan, safety degree against flood is said to have increased by river improvement. However, frequently flooded areas still exist. This means that frequently flooded areas has some characteristics which prevent river improvement. Therefore it is important to clarify the distribution and characteristics of frequently flooded areas for thinking about future river improvement plans.In this research, we clarified the distribution of frequently flooded areas in Japan, using flooded area maps. As a result, it is clarified that most frequently flooded areas exist in narrow valley plains, and the reason why such areas are still flooded is difficulty of embankment.
著者
田中 鉄二 樋口 輝久 馬場 俊介
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.38-48, 2011 (Released:2011-10-20)
参考文献数
64
被引用文献数
1 3

日々軌道を検査し,線路に発生する様々な異常を整備することが保線作業であり,保線なしで安全で快適な鉄道運転は成り立たない.輸送量の増加,速度の向上,使用機械及び材料の変化,さらには,鉄道事故や戦争の影響によって保線は変化し続けてきた.そこで本論文では,保線を行う際の規範となり,鉄道創業時から制定され続けている“規程”に着目し,鉄道創業時から国鉄の分割民営化後までの鉄道保線の変遷を明らかにしようとする.対象とした組織は,官設鉄道,国有鉄道そしてJRで,民営鉄道は除いている.まず,規程についての概略を述べた上で,保線に影響を与えた重要な出来事について整理し,作業,材料(レール,枕木,道床,分岐器)に区分して,その変遷を明らかにした.
著者
三角 耕太 田中 皓介 川端 祐一郎 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_525-I_535, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
18

近年では「公共政策バッシング」と呼ぶべき報道がしばしば行われている.本研究では,公共事業に対するバッシング報道の一例として,豊洲市場移転問題に関する報道を取り上げる.当該事業に関する批判が高まった後,批判の根拠である「豊洲市場の危険性」が専門家により否定されたにも関わらず,批判は継続されたが,この際の論調の(部分的変更を伴う)選択過程の分析を行った.テレビの情報番組及び新聞の報道内容に関する定量的データの分析から,いずれのメディアにおいても「危険性から手続的瑕疵へと論点を移動させた上での批判の継続」という論調選択が一定程度行われていることが示された.またこの過程に関する認知的不協和理論に基づく検討の結果,この論調選択が認知的不協和の低減プロセスとして現出している可能性が示唆された.
著者
藤井 聡 宮川 愛由
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.I_97-I_109, 2016 (Released:2017-01-31)
参考文献数
29
被引用文献数
2

自然災害に見舞われるリスクが高い我が国において,社会資本整備のみならず,防災及び経済発展の担い手として,土木建設業が非常に重要な役割を果たしてきた.一方で近年,公共工事の入札市場では,闇雲な低入札等の弊害により,建設業界全体が疲弊しており社会全体が甚大な不利益を被ることが危惧されている.そこで本研究では,我が国の公共調達制度適正化に資する知見を得ることを目的として,明治初期から今日に至るまでの我が国の公共調達の歴史変遷を整理した.その結果,我が国の公共調達は純粋な競争を避け,実質的に受発注者で調整を行うことで個々の受注価格と請負者を特定し,その中で,適切な工事品質を確保するという公益に資する目的で行われていた談合の存在と,それを正式に活用するための制度発展という歴史的経緯の存在が示唆された.
著者
大山 璃久 佐藤 辰郎 一柳 英隆 林 博徳 皆川 朋子 中島 淳 島谷 幸宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.II_135-II_141, 2019 (Released:2020-03-16)
参考文献数
22

小水力発電は有望な分散型の再生可能エネルギーであり,日本各地への導入が期待されている。小水力発電は環境負荷が小さいと考えられているが,減水区間が生じるため,河川生態系の影響を正しく評価しておく必要がある.本研究では,小水力発電による減水が渓流生態系にどのような影響を与えるのかを定量的に明らかにするため,底生動物を指標として渓流のハビタット類型ごとに減水の影響度合いを評価した.研究の結果,加地川では,全ての渓流ハビタットにおいて減水による底生動物個体数,分類群数,及び生物の群集構造への影響は認められなかった.加茂川では,一部ハビタットにおいて減水区間の底生動物個体数及び分類群数が減少しており,生態系の変質が示唆された.原因として,砂防堰堤から取水されるため,土砂供給量減少が考えられた.
著者
高田 知紀 高見 俊英 宇野 宏司 辻本 剛三 桑子 敏雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.I_123-I_130, 2016
被引用文献数
2

本研究の目的は「延喜式神名帳に記載された式内社は,大規模自然災害リスクを回避しうる空間特性を有している」という仮説にもとづいて,特に四国太平洋沿岸部における南海トラフ巨大地震の想定津波浸水域と延喜式内社の配置の関係性を明らかにすることである.<br> 高知県沿岸部777社,徳島県沿岸部438社について,それらの津波災害リスクについてGISを用いて分析を行ったところ,高知県では555社,徳島県では308社が津波災害を回避しうる結果となった.さらに,式内社について分析したところ,沿岸部に位置する式内社はそれぞれ,高知県内18社,徳島県内30社であり,そのうち津波災害のリスクがあるのは,高知県2社,徳島県2社の合計4社のみであった.この結果から,古来,信仰の中枢であり,また国家から幣帛を受ける官社であった式内社は,数百年に一度で襲来する大規模津波についても,その災害リスクを回避しうる立地特性を有していると言える.
著者
鯉渕 幸生 小野澤 恵一 中村 格之 原本 英二 片山 浩之 古米 弘明 佐藤 愼司 岡安 章夫 磯部 雅彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.886-890, 2005-10-07 (Released:2010-06-04)
参考文献数
6
被引用文献数
2 4

お台場海浜公園周辺において, 栄養塩類, 大腸菌, アデノウイルスなど雨天時越流水起源物質の時空間変動過程を詳細に観測した. 微生物の変動傾向は, 栄養塩類のそれとは異なり, 大腸菌については数mmの降雨でも, 降雨後数日間にわたって遊泳には不適切な糞便汚染を疑わせるレベルとなった. これらの微生物は下水管路内の堆積物に存在していると考えられ, 降雨量よりも先行晴天日数により濃度が大きく変動する. 現在では, 糞便性大腸菌群数により感染リスクを評価しているが, 細菌類とウイルスの変動過程は異なるため, 今後はアデノウイルス等の観測結果を蓄積することが, 都市沿岸域での感染リスクを正しく評価するために望ましいと考えらえる.
著者
奥村 友利愛 吉城 秀治 辰巳 浩 堤 香代子 今里 鈴花
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.I_911-I_922, 2019 (Released:2019-12-26)
参考文献数
27

人々にとって身近な移動手段である路線バスは誰にでも使いやすいものであることが望まれる.しかし多くの場合,基本的な情報が利用者にわかりやすい形で提供されておらず,そのため乗る際の心理的抵抗が大きいと指摘されるような状況にある.そこで本研究では,バス利用に関わる案内の中でも路線図に着目し,デザインの観点からその実態を把握し,路線図のデザインと人々の「わかりやすさ」との関係を明らかにすることを目的とし評価実験を行った.そのためにまず全国に存在する241件の路線図に対してクラスター分析による類型化を行い6パターンに分類した.そして各パターンの路線図に対して経路探索による評価実験を行い,路線図を見る際の人の挙動と意識の面からわかりやすさに関する要因について明らかにした.
著者
松本 敬司 中井 隆亮 福岡 捷二 須見 徹太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.I_1477-I_1482, 2014 (Released:2015-05-18)
参考文献数
11
被引用文献数
3

The Watarase retarding basin which is located in the lower Watarase River has an important role on the flood control in the Tone River. The design flood discharge of a period of about 30 years hereafter in the Tone River is 14,000m3/s at the Kurihashi of the Tone River.In this paper, the flood control functions of the Watarase retarding basin are investigated by the flood flow analysis when the peak flood discharge under various discharge hydrographs is about 14,000m3/s at the Kurihashi in the Tone River. It is shown from the calculation that the Watarase retarding basin reduces peak flood discharge and delays the peak occurrence time at the Kurihashi by storing flood discharge flowing back to the Watarase River from the Tone River. Furthermore, some remarks are given for the enhancement of flood control functions of the Watarase retarding basin.
著者
兵藤 哲朗 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.110-112, 2021 (Released:2021-06-20)
被引用文献数
1

新型コロナウイルス感染症,いわゆるCOVID-19の感染拡大は,土木計画学分野の研究者が研究対象としてきた都市活動,交通行動,経済・産業活動に対して大きな影響をもたらした.ついては本特集は,土木計画学研究委員会が主催し2020年8月8日に開催した「COVID-19に関する土木計画学研究発表セミナー」での発表論文を中心として,COVID-19の感染拡大に伴うそれらの諸行動,諸活動,ならびに諸対策にまつわる各種の土木計画学研究を掲載するものである.
著者
藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木學會誌 (ISSN:0021468X)
巻号頁・発行日
vol.97, no.9, pp.50-51, 2012-09-15
著者
波床 正敏 中川 大
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.I_725-I_736, 2015 (Released:2015-12-21)
参考文献数
23

全国新幹線鉄道整備法が制定されて40年以上経過し,当初構想の全体ネットワークも徐々に建設されつつある.だが現在の日本の幹線鉄道整備は欧州諸国とは異なり,原則として高速新線の建設しか手段として持たない.ミニ新幹線やスーパー特急などの整備手法についても整備計画路線の暫定整備手法として存在するほか,既設線における速度向上も補助的な手法としては考えられるものの,果たしてこれら手法を組み合わせて,どの程度の改善が可能なのかは明瞭ではない.本研究では,2010年時点の路線網と工事中路線が完成した状態を基準とし,2040年を想定した旅客流動を前提にGAを用いて最適な幹線鉄道網を探索した.その結果,整備スキームを改善することで地域間交流を拡大できるとともに多様性を向上できることがわかった.
著者
山西 博幸 木塚 綾 大峯 貴裕 高致晟 長濱 祐美
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.III_221-III_228, 2015 (Released:2016-06-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

大きな干満を有する有明海に面した六角川水系では,粘着性を有する微細粒子からなるガタ土堆積及びヨシを主体とした植生管理に苦慮している.これらは河道断面の狭小化や流水能の低下を引き起こし,常に河川管理者の課題となっている.また,近年,河川由来の浮遊ゴミとしてのヨシ流出も問題化している. 本研究は,六角川水系牛津川の感潮区間にヨシ植生管理のための貯水トレンチを考案・設置し,長期にわたる調査を通して,その効果を明らかにした.その結果,植生管理としてのトレンチの有効性を示すとともに,貯水トレンチの水位を0.3m以上維持することでヨシ発芽抑制が可能であること,遮蔽板の地上部突起により高濃度の浮泥流入が抑制されること,および貯留水の排出が河川本川に与える影響はほとんどないことなどを示した.