著者
大久保 豪 宮田 裕章 友滝 愛 岩中 督
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.435-450, 2012

目的:近年,医療水準の評価を目的として,現実に行われた医療に関するデータを収集し,実証的な分析を行う,大規模臨床データベースが構築されるようになっている。本研究の目的は医療水準の評価を目的とした臨床データベースの正当性を明らかにすることである。<br>方法:BeauchampとChildressの生命倫理の4原則(自律尊重原則,無危害原則,仁恵原則,正義原則)に基づいて,臨床データベースの正当性を分析した。分析にあたっては,既存の資料や現在実施されている臨床データベースに関する資料を参考にした。<br>結果:自律尊重原則に基づく方法として≪データ登録に関する患者意思の尊重≫と≪登録目的,登録情報の開示≫が挙げられた。仁恵原則に基づく方法として≪登録情報の漏洩予防≫と≪登録される情報の匿名化≫が挙げられた。正義原則に基づく方法として,≪参加に係わるコストの削減≫,≪参加条件の設定≫,≪データ利用の受付条件の設定≫,≪データ分析結果の公表内容の吟味≫,≪データ分析の限界に対する配慮≫,≪データ分析結果の公表対象の吟味≫,≪資金提供元の明示≫といった方法が重要であると考えられた。一方で,臨床データベースは現実に行われた医療をそのまま記録するものであり,無危害原則に基づいて正当性を高める必要性は低いと考えられた。<br>結論:臨床データベースの構築,運営にあたっては,正確性,有用性,実現可能性を鑑みながら,本研究で明らかになった方法によって正当性を高めていくことが求められる。正当性の確保に当たっては,継続的な検証が重要である。

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